人口減や地域経済の衰退によって仏教が曲がり角に立たされている。檀家制度は崩壊の危機に瀕し、寺院の消滅や「墓じまい」の流れが止まらない。1500年の歴史を有する日本の仏教はどこへ向かうのか。僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳氏が仏教界に待ち構える未来について考える。1回目は、動き始めた「ジェンダーフリー」への対応だ。
(*)本稿は『仏教の未来年表』(鵜飼秀徳著、PHP新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
平等であるはずの仏教が「差別」
かつて霊山たる富士山や比叡山、高野山などは、その一部もしくは全域で女人禁制だった。祭祀でいえば、京都の夏の風物詩、祇園祭には今なお女性参画への制限が残る。
公的には、1872(明治5)年に明治新政府が「女人結界の廃止」を布告したが、それでも、仏教・神道の現場がジェンダーフリーにはならなかった。
そんな宗教現場の女性に対する差別は少しずつではあるが、解消に向かいつつある。
ところが、6世紀の仏教伝来以降およそ1500年間、議論の俎上にすら載らなかったことがある。LGBTQ(性的少数者)の人に対する救済だ。
仏教界が初めてLGBTQ問題を真正面から取り上げたのは、2020(令和2)年11月に公益財団法人全日本仏教会が実施した公開シンポジウム「〈仏教とSDGs〉現代社会における仏教の平等性とは〜LGBTQの視点から考える〜」においてであった。
SDGsの具現化を目指し、企業や自治体のLGBTQへの社会的な取り組みを背景にして、保守的な日本仏教界が重い腰を上げた形だ。だが、家墓の承継や戒名など、江戸時代から続く慣習を変えていくのは一筋縄ではいかないのも事実だ。
日本は欧米各国に比べて、LGBTQに対する法整備や社会保障制度が遅れている。同性婚は法律上まだ認められておらず、財産相続をはじめ、さまざまな障壁が立ちはだかっているのが現状である。
「いま」のことだけではない。LGBTQの人への差別は「死後」も続いている。