「人間社会が始まってから、常に同性愛はありました。仏教は性差、社会的地位、制度などにかかわらず、誰もが救いの道が開かれると説いています。しかし、仏教界ではLGBTQについて、これまで(タブー視して)公には語ってきませんでした。平等であるべき仏教界の教えと、実際のあり方が違っているのです」

 全日本仏教会の理事長(当時)戸松義晴さんはシンポジウムでこう語りかけた。日本仏教の連合組織のトップが仏教界のLGBTQ問題について公に言及し、これまでの仏教的慣習を問い直すのは珍しいことだった。

戒名、男性なら「居士・信士」、女性なら「大姉・信女」だが

 ここで少し歴史を遡って問題点を整理してみよう。

 古代インドで仏教を開いたお釈迦さまは、身分にかかわらず、誰でも悟りの境地に達することができると説いた。お釈迦さまは女性の修行僧も認めていた。そもそも仏教の教えには、性の差別は存在しない。

 しかし6世紀、仏教が日本に入ってくると、状況が変わる。土着的な神道と、外来の仏教とが混じり合う(神仏習合)ことが契機になり、性による区別を始める。比叡山や高野山など仏教聖地で女人禁制が敷かれるようになった。

 江戸時代に入り、檀家制度が導入されると庶民への弔いが一般化する。そこでは、性の区別がより明確化されていく。

 たとえば戒名。戒名(位号)は基本的には男女の違いがある。宗派にもよるが浄土宗の場合、男性なら「居士(こじ)」「信士(しんじ)」など、女性なら「大姉(だいし)」「信女(しんにょ)」などだ。LGBTQを考慮した戒名はない。

 檀家制度の下では、「イエ」を単位として、弔いが継承されていく。つまり「先祖供養」である。男系長子が菩提寺の檀家になり、墓や仏壇を継承していく。祭祀の男系長子継承の慣習はいまでも続いている。

 近年まで、現場の寺院でLGBTQの話題が持ち出されることはまずなかった。ところが近年、SNSの普及なども相まって、LGBTQの権利が社会で共有され始めると、仏教界にも変化の兆しが表れる。