企業のようにお寺も売買される時代に。写真はイメージ(写真:SAND555UG/Shutterstock.com)

人口減や地域経済の衰退によって仏教が曲がり角に立たされている。檀家制度は崩壊の危機に瀕し、寺院の消滅や「墓じまい」の流れが止まらない。1500年の歴史を有する日本の仏教はどこへ向かうのか。僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳氏が仏教界に待ち構える未来について考える。2回目は、増えている寺院の「M&A(合併・買収)」について。

(*)本稿は『仏教の未来年表』(鵜飼秀徳著、PHP新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

民間企業が寺院を乗っ取る

 近年、寺院の「M&A(合併・買収)」が活発化してきている。

 その背景はさまざまだが「裏の目的」で民間企業や、資産家が宗教法人を買収することが、しばしば行われている。宗教法人格を取得し、非課税部分を利用して税金対策をする手法などである。

 寺院が民間企業に対し、対価を得て宗教法人の名義を貸すケースもよくあるが、こちらも違法だ。宗教法人格の売買は、資産隠しなどの不法行為の温床になったり、カルト教団がアジトとして活用したりするなど地域の安全を脅かす元凶にもなっている。

 一戸建てやマンションを買うように、寺院や神社の売買は可能なのか——。多くの人にとっては、なんとも不可解な話に聞こえることだろう。しかし、実際にはこれまで多くの宗教法人が第三者の手に渡って、悪用されてきた歴史がある。過去の例を挙げながら説明しよう。

 2010(平成22)年10月13日付、『毎日新聞』大阪版朝刊では「寺の法人格、売却詐欺容疑で京都の住職ら逮捕」の見出しで報じている。

 記事は、宗教法人格の売買をめぐって、詐欺容疑で京都市内にある古刹の住職や責任役員が逮捕されたという内容だ。

 この寺は天皇家ゆかりの名刹(めいさつ)で、重要文化財の本尊を抱えていた。民間企業への譲渡代金は1400万円で、企業側は前金700万円を支払った。しかし、宗教法人格は譲渡されなかったため、被害届を提出した、というものだ。

 また、福岡市の寺では2009(平成21)年に土地所有権が不正に移転登記され、神社の代表役員らが逮捕されている。逮捕された役員らは「納骨堂などをつくって売却するため、寺を乗っ取るつもりだった」と供述していた。この事件では暴力団もからんでいた(「朝日新聞」2009年3月23日付)。

 寺院の売却をめぐって刑事事件にまで発展し、新聞沙汰になる事例はさほど多くはない。しかし、水面下でトラブルになっているケースは、いま現在でも相当数あるとみられる。