トラブル・犯罪の根底にある寺院の承継問題

 なぜ、寺は宗教法人格を売りたがり、企業や個人は買いたがるのか。

 寺院側の事情としては、経済的な困窮が挙げられる。近年、檀家減少などに伴って「食べていけない寺」になり、次期住職に引き継げないケースが頻発している。

 後継者がいれば寺院を維持し、資産を残そうと考える。しかし、いずれ寺が無住化するのなら、住職の中には寺を売却し、老後資金に充てようと考える者もいそうなものだ。宗教法人格を売った手元資金を“持ち逃げ”して、還俗(げんぞく、僧侶をやめて一般人になる)すれば、老後の生活が担保できるからだ。

 もちろん、宗教者としてこのような身勝手な行動は決して許されることではない。仮に継承者がいなければ、宗門に相談して継承者をマッチングしてもらうか、地域の資産として檀家組織や地域が管理していく仕組みを考えるか、あるいは解散するべきである。

 だが実際のところ、寺院の承継問題は深刻である。

 後継者の決まっていない寺は、末寺約1万か寺を抱える浄土宗本願寺派では30%(2021年)、約4700か寺の日蓮宗では43%(2020年)、約7000か寺の浄土宗では46%(2017年)となっている。寺院が承継できなければすなわち「空き寺」になる。空き寺の増加とともに、宗教法人を売却する事例が増えていくのは必然といえる。

手入れが行き届かず、ボロボロになるお寺も。写真はイメージ(写真:d3_plus/Shutterstock.com)

 また、すでに空き寺を兼務している(兼務寺院を抱えている)寺院の中にも、売却を検討する動きが出てきている。空き寺の護持には伽藍(がらん)の修繕など、莫大な維持コストがかかってくるからだ。

 そうした場合、複数の寺院を合併させて経営の合理化を図るのが、ひとつの妥当な判断になる。兼務している寺院を解散させ、その不動産の売却益を得て、本寺の経営を健全にしていく手法である。

 しかし、合併には煩雑な手続きや伽藍の解体などの手間とコストがかかる。そこで、やはり兼務寺院を売却することが視野に入ってくる。では、宗教法人格の売買相場はどれくらいなのか。