「むしし」を立ち上げた下田貴宗氏(筆者撮影)
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「世の中の役に立ちたい」という理想を掲げて起業する者は多いが、その多くが道半ばで倒れていく。ビジネスの世界では、利益なくして生存なし。社会貢献と収益性――この二律背反にも見える命題を解くことこそが、真の起業家の証明だ。志は尊いが、志だけでは飯は食えない。

 だからといって、志を忘れていいのだろうか。答えは否である。特に地方において、その土地特有の課題に向き合い続ける企業はかけがえのない存在になる。収益を上げながらも、地域の切実な問題に真摯に取り組む。そんな稀有な経営者が、長崎にいる。害虫駆除や害獣対策の新会社「むしし」を立ち上げた下田貴宗氏である。

致死率20%、増加するマダニ被害の脅威

「先週のニュースでも、マダニに噛まれて亡くなった方がいました」

 下田氏が語る現実は深刻だ。長崎ではイノシシやシカが民家近くまで出没するようになり、そうした生き物が保有するマダニによる被害が増加している。マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の致死率は約20%。無視できない数字である。

下田社長が見せてくれた、地元の野生動物に寄生していたマダニの画像

 ムカデの被害も深刻だ。特に九州は虫が多く、関東から引っ越してきた人が「虫がでかすぎて、多すぎて嫌だ」と訴えるケースも多い。ムカデに噛まれれば激痛が走り、アナフィラキシーショックを起こす可能性もある。

もちろんスズメバチなどの駆除依頼もある

 しかし、多くの害虫駆除業者は「とりあえず殺虫剤」で対処する。それでは根本解決にならない。