人口減少、後継者不足、そして海外企業との競争――。日本の地方では、かつて地域経済を支えてきた中小企業が次々と姿を消している。伝統を守るだけでは、生き残れない。だが、そんな逆風の中でも、独自の強みを見出し、新たな挑戦を続ける企業がある。本連載では、不確実な時代を生き抜く企業の取り組みに迫る。
大きく減った漁獲量
「廃業しろ」――。前田水産(鳥取県米子市)の前田哲弥社長が2000年代初頭に父親から受け取った遺言は、厳しいものだった。ズワイガニの加工を長年、境港で手掛けてきたが、前田社長自身、変化を感じていた。漁獲量は明らかに減っていた。
日本有数の漁業基地である境港。その境港で水揚げされるベニズワイガニの漁獲量は年間8000トンと、全国シェアの6割を占める。しかし、この数字も往年の勢いはない。1984年のピーク時には3万1000トンを超えていた水揚げ量は、今では約4分の1にまで落ち込んでいる。
気候変動の影響も加わり、漁獲量の年ごとの変動も激しくなっていた。カニのサイズも年々小さくなっており、「姿物」と呼ばれるボイル用の大きなカニとして出荷できるのは1割にも満たない。「このままでは先はない」。父親の遺言は、厳しい現実を見据えたものだったが、「境港のカニの美味しさを一人でも多くの人に届けたい」という思いも簡単には消えなかった。