スーパーマーケットで販売されていた「コオロギせんべい」。(2021年8月、筆者撮影)

(水野 壮:NPO法人食用昆虫科学研究会副理事長)

 2023年2月末から、コオロギを中心とする昆虫食を批判するコメントが、SNSやウェブ記事などで数多く見られるようになった。中にはコオロギを食用に飼育、販売する昆虫事業者へのバッシングに発展する事例もあり、各社対応に追われている。

日本における昆虫食の普及は、10年以上前から始まった

 そもそも昆虫食に関しての報道は、国内では10年ほど前からなされていた。きっかけは2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した報告書*1である。昆虫が、世界の食料安全保障として将来重要な食材となりうることが主張された。

 日本国内でも、マスメディアがこの報告書の発表を取り上げた。日本を含む世界で昆虫が広く食べられてきたこと、環境負荷の低い食材であること、見た目とは裏腹に意外に美味しいことなどが、各番組で取り上げられた。

 この頃、筆者も何度かマスメディアの取材を受け、社会の変化の兆しを感じた体験があった。かつてはバラエティ番組などで「罰ゲーム」に使用され、気持ち悪がられるコンテンツの代表であった昆虫が、意外にイケる、エコな食材として価値あるもの、という取り上げられ方に変わっていたのである。

特にここ3~5年で普及が急速に進んでいる

無印良品で発売されていたコオロギせんべい。(2021年9月、筆者撮影)

 さらに一段と国内の身近な生活へ普及し始めたのは、3~5年ほど前からである。2018年頃から国内に新しい昆虫食関連事業者が増加し、2020年には無印良品からコオロギせんべいが発売され、通常のお菓子と変わらない価格で店頭に並んだ(写真)。

 その翌年からは、スーパーや百円ショップ、ドラッグストアなどの身近な店にも、コオロギを使った食品が発売されるようになった。昆虫食品を販売する自動販売機も、2020年頃から国内各地域へ普及しはじめた。

 こういった普及とともに、昆虫の食利用の報道は、これまでいくつもあった。しかし、いずれも大きな反発はなかった。昆虫食に関するウェブ記事も、盛り上がった場合でもコメントはせいぜい数百件程度に留まっていた。