「蟲ソムリエ」としての活動を広げている佐伯真二郎氏

 トノサマバッタは香ばしくトウモロコシのような風味と甘みがあり、高温で揚げるとカリッと食べやすい、マダガスカルゴキブリはナッツクリームのかかった鶏肉のような上品な味わい──。「蟲(むし)ソムリエ」の佐伯真二郎氏は今まで419種の昆虫の味見をし、記録してきた。Twitter上では「蟲喰ロトワ」(むしくろとわ)としても有名だ。現在は日本からラオスに拠点を移し、農村部の栄養と所得改善のために昆虫養殖普及の技術開発を担っている。

 研究生活や就職活動における挫折の中で、虫が嫌われているのか、それとも自分が嫌われているのか、とまで悩んだこともあったが、今では五感をフル回転して昆虫と関わることが人生そのものになった。昆虫を見つけ、音を聞き、においを嗅ぎ、調理し味わう。夢は昆虫図鑑に「味」の項目が追加されること。『おいしい昆虫記』(ナツメ社)を発表したNPO法人食用昆虫科学研究会理事長の佐伯真二郎氏に話を聞いた。(聞き手:長野光 シード・プランニング研究員)

(※記事中に佐伯真二郎氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)

──佐伯さんはご自身のことを「蟲ソムリエ」と語っておられますね。

佐伯真二郎氏(以下、佐伯):「適切な人に適切な虫をおすすめする蟲ソムリエ」として、大学院生時代に「蟲ソムリエへの道」というブログで昆虫食を公開したのが出発点です。よく「昆虫ってどんな味ですか?」と聞かれるので、昆虫の味を説明できるように、茹でて味見をし、味、香り、のどごし、見た目、のびしろの5項目のスコアをつけて記録する活動も始めました。今までこのテイスティング方法で419種の昆虫を評価しました。

──評価基準の5項目の一つである「のびしろ」とはどのような意味でしょうか。

佐伯:昆虫食をやっている人同士ではたいてい「カミキリムシがおいしい」という話になるんですね。僕は昆虫食の将来性を考えた上で養殖をしていきたいと考えていますが、カミキリムシは生の木を食って枯らしてしまうので、養殖にはより多くの木が必要になり、効率が悪い。だからカミキリムシは、将来性という意味で「のびしろがあまりない」という評価になります。

──セミの燻製について、「簡易燻製を口に入れると、食べ慣れたベーコンのような香りが鼻を通り、ガシッと噛むほどにセミの抜け殻を破り抜けてプリッとした筋肉の食感が口の中で暴れる。セミの体内には長年吸った木の汁の香りが充満していて、そこからほろ苦さとともに圧倒的なナッツの香りが口の中に広がっていく。おいしい。もしかして昆虫をモチーフにしてウインナーが作られたのではないか、と思えるぐらいに燻製セミはレシピとしての完成度が高い」という記述があり、大変食欲をそそられました。普通の人はこんなに上手に味の描写はできないと思うのですが、食レポのスキルはどのように学ばれたのでしょうか。

佐伯:研究は客観的なデータを取っていく作業ですが、「蟲ソムリエ」の活動では、個人の主観的な気持ちも入れておこうと、食レポの部分も自分なりに工夫しています。ルールの一つは、味の描写に「他の昆虫の味」を使わないことです。例えばセミの味を描写する時に「ギンヤンマの筋肉の歯ごたえと近くて甘味がある」といっても伝わりません。それで、昆虫の味をあらわす時は昆虫以外の食材に例えて表現する、というルールにしました。