ラオスの昆虫食をサポートする理由
──佐伯さんは今ラオスにいらっしゃいますが、ラオスで何をなさっているのでしょうか。
佐伯:ラオスで活動していたNGOのISAPH(アイサップ)の方から、ラオスでは昆虫をよく食べるが、子供の栄養状態が悪いという話を聞きました。昆虫を普通に食べているのに栄養が足りない人を差し置いて、日本で昆虫を食べようという活動をしていていいのだろうか、と思うようになりました。
1960年代、緑の革命による化学肥料と品種改良、殺虫剤よって農業生産が倍増しました。他の地域では殺虫剤を使うので昆虫が減っていき、昆虫食文化が維持できなくなっていますが、私が入ってるラオスの農村部は、ひと月の現金所得が1000円未満の人が60%~70%を占める地域です。品種改良された種や化学肥料、殺虫剤がいまだに手に入らず、緑の革命から取り残された貧困地域と、昆虫食文化が残された地域は重なっているんです。
昆虫食の価値が見直されたのは2013年です。FAO(国連食糧農業機関)が食糧問題への有効な対策の一つとして、地球温暖化に対して温室効果ガスを出しにくい昆虫を挙げたんです。今まで見過ごしてきた先進国によって再発見されたんですね。
先進国と貧困国の格差を考えると、もし世界的な大企業が昆虫食で大きく儲けを出したとしても、昆虫食文化をもっている地域に還元されなければ、それは良いこととはいえないでしょう。やはり昆虫食によって、貧困地域の人たちの生活が向上していくところからスタートするのが一番倫理的な方法ではないでしょうか。
2017年からは味の素ファンデーションのプロジェクトで、昆虫を含めてラオス人の栄養改善に必要な効果的な食べ物は何か、という調査をしました。その結果、彼らに足りていない栄養とマッチする昆虫であるエリサン、ゾウムシが見つかり、さらに養殖して高く売れることがわかりました。
そして、養殖した昆虫を売って、その利益で栄養価の高い食べ物を市場で買って帰る、また、もし市場で売れなかったとしても売り余った昆虫を自分の家で食べることで栄養面がマイナスにならないようにする──。そんな所得向上を目指すための養殖技術の開発をしています。
ラオスでは昆虫をすでに食べているし、おいしいということも皆知っています。中でもゾウムシは1キロ当たり1400円で牛肉の1.5倍くらいの価格ですから、昆虫は市場で価値が高いということも知っています。そういう人たちに、野外で捕って食べるよりも、養殖して食べた方が時短になって確実に手に入るのでベターな方法だという提案をしています。
日本で昆虫食の普及を目指すより、ラオスですでに昆虫を食べている人をサポートして、昆虫を食べている人が得する社会のしくみを作っていきたい。それが今の僕の大きなテーマです。(構成:添田愛沙)