フランスの人類学者・歴史学者であるエマニュエル・トッド氏は、ソ連の崩壊やアラブの春、トランプ大統領の誕生などを予見したとして知られる。人口に関する膨大なデータと蓄積された知識から歴史を分析、導き出された結果から未来の世界をも描き出す。
『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房)では、大野舞氏(本書翻訳者)との対話から「現代最高の知性」といわれるトッド氏が、自らの思考方法を「歴史」(長期的な視点)、「データ」(ひたすら事実を集めること)、「外在性」(視点を外の世界に置くこと)──の3点から解剖する。
コロナウイルスによって暴かれたグローバリゼーションの影、米ロ関係と中国の脅威、日本の果たすべき役割、そしてパンデミック以後の世界の道筋についてトッド氏に聞いたインタビューの前編。(聞き手:長野光 シード・プランニング研究員、インタビュー通訳・翻訳:大野舞 ※インタビューは2021年2月12日に実施しました)
(※記事中にエマニュエル・トッド氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)
──新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響を、10万人当たりの人口死亡率と工業化や乳児死亡率、生活水準、家族構造や男性、女性の地位といった関数と結びつけて分析されているとあります。このパンデミックからどんなことを見極めようとしているのか教えてください。
エマニュエル・トッド氏(以下、トッド):現在進行形の問題なのでまだ作業は途中ですが、ある程度の結果は見えてきています。
第一波でわかったことは、工業が十分に盛んで、自国に産業を残した先進諸国の方がより耐久力が高かったということです。それらの国々、つまりドイツや日本、中国、韓国、台湾は直系家族(父系の家族構造)の国でもありました。一方、脱工業化を果たした英国や米国、フランス、ある意味ではスウェーデンも含みますが、は死亡者が多かった。これがCOVID-19の最初のショックでした。
パンデミックは第2フェーズに移りましたが、この点についてはまだ不確実です。
このウイルスが終わりなく変異を続け、新しい変異株が生まれ続けるのか、ワクチンに耐えるようなものなのかどうか、まだまったくわかりません。もしかすると世界的なインフルエンザのような存在になり、ワクチンだけを解決策として、この戦いをずっと繰り返し続けていくのかもしれません。第一波に耐えた国々が次の第二波にも打ち勝てるかどうかも疑わしいでしょう。
ドイツは既にCOVID-19との戦いに負けました。第一波で見せた耐久力も一時的なもので、近々フランスと同レベルの死者数に達することもあり得ます。中国、日本、台湾はうまく乗り切りましたが、これが永久に続くとは思えません。
このウイルスは高齢者にとって大きな脅威ですが、ドイツや日本、中国のような高齢者の比率が高い人口構造の国は非常に不利です。日本ではなかなかワクチン接種が始まらないというニュースを見ました。ワクチンの接種が進まないというのは、日本の人口比率を考えるとリスクの高い賭けだと思います。