トランプ政権で国家安全保障担当補佐官を務めたジョン・ボルトン氏(写真:Gage Skidmore)

 原題は『THE ROOM WHERE IT HAPPENED:A White House Memoir』(日本語版は『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』<朝日新聞出版>)。トランプ政権は「機密情報が含まれている」として、本書の出版差し止めを申し立てたが、訴えは却下され2020年6月に全米で出版された。

 著者は2018年4月から2019年9月までトランプ政権で国家安全保障担当補佐官を務めたジョン・ボルトン氏。側近から見たトランプ前大統領はどのような人物だったのか。バイデン政権がスタートしたばかりの米国だが、いまだ大きな余波が続いているトランプ政権の4年間を今改めてボルトン氏と振り返る。(聞き手:長野光 シード・プランニング研究員、インタビュー日:2021年1月22日)

(※2ページ目にジョン・ボルトン氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)

──シンガポールで行われた米朝首脳会談(2018年6月12日)では、トランプ前大統領に非核化への熱意を語る金正恩・北朝鮮労働党委員長(当時)の話を聞きながら、マイク・ポンペオ国務長官が「こいつは大ウソつきだ」と書いたメモをこっそりあなたに渡しました。トランプ大統領と金正恩氏が向かい合っていたとき何を感じていましたか。

ジョン・ボルトン氏(以下、ボルトン氏):私はトランプ氏が金正恩氏に対して「何かを差し出してしまうのではないか」と非常に不安でした。

 金正恩氏やプーチン大統領、習近平国家主席といった、外交交渉のテーブルの反対側に座る相手は皆、長い経験と深い知識、明確な目的を持っています。そのすべてを基に練られた戦略的な計画を持って、普通は会談に臨みます。我々もこの米国大統領と北朝鮮のリーダーの史上初の会談のために、ブリーフィングの機会を持とうとし、戦略的なアプローチをしようと試みました。しかし、トランプ氏は事前に計画することを望まず、何の準備もしませんでした。

 トランプ氏は相手がどの程度の相手か、手ごたえのある交渉ができる相手かどうか、会って数分の間話してみれば分かると思い込んでいます。彼のように手ぶらで行って、即興で外交に臨む姿勢は、入念に準備して会談に臨む他国のリーダーたちとは正反対です。

 米朝首脳会談において、もう一つ鮮明に覚えていることがあります。トランプが金正恩氏と向かい合い、米国側にはマイク・ポンペオ氏とジョン・ケリー氏、私がいました。トランプは突然言い放ちました。「私は米韓合同の軍事演習は嫌いだ」と。あんなものはただの「戦争ゲーム」で金の無駄遣いだ、そして金正恩に「あなたも嫌でしょう?中止してしまおう!」と提案したのです。

 私もケリー氏もポンペオ氏も、まさかそんなことを言い出すとは予想もしませんでした。米韓合同軍事演習は、韓国と現地の米軍兵の安全性を確保するために極めて重要なものです。これはこの会談における大きな失敗でした。

 トランプ氏は万事こんな調子ですから、私は相手が金正恩氏であれ、プーチン氏であれ、習近平氏であれ、始まりから終わりまで、とにかく大きな問題を起こさずにさっさと無事に会談が終わることばかりを願っていました。