承継後に開発したクリスマス用の上生菓子(写真:あけぼの菓子舗提供)
目次

(尾形 苑子:日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員)
<現・さいたま債券業務センター 上席課長代理>

【前編はこちら】なぜ米穀店が地元の人気カレー店を継ぐことになったのか?親族外への事業承継で受け継がれる、中小企業の想いと価値

一緒に働いていた仲間が…親族外承継の課題

 親族外承継では次のような四つの課題に直面しやすい。

 一つ目は、相手がなかなかみつからないことである。親族外まで探索の範囲を広げると候補の母集団は増えるが、候補者の数が増えれば相手がすぐにみつかるというものでもない。

 学生服を販売する株式会社MASAYAの先代夫婦は、子どもに継ぐ意思がなく、従業員もいなかったため、金融機関や取引先などさまざまなところに声を掛けて後継者候補を探したという。その過程で紹介された人もいたが、のちに後継者となった山田拓也さんと出会うまで、事業を託したいと思える人には出会えなかった。

承継後に創業店をリユース店に改装(写真:MASAYA提供)

 二つ目は、適した相手かどうかを見極めるのが難しいことである。後継者候補がみつかり、情報を開示したとしても、知り得る情報の質と量は限られる。特に人柄や熱意など定性面の情報は、簡単にはみえてこない。

 長年大事に育ててきた会社をこの人に託して大丈夫か、ほかにもっと適した人がいるのではないか、と悩むケースは多いだろう。

 金属製品の製造を手がけてきた株式会社アベキンの阿部隆樹さんは、自身が父の会社を継いだ経験から、赤の他人よりも近しい存在に後を託したいという気持ちがよくわかるという。

 譲り渡し側の経営者は、そもそも第三者に引き継ぐことに抵抗感があることが多く、譲り受け側が「困っているところを助けてあげる」というスタンスだと、引き継ぐにふさわしい相手だと思ってもらえない。気持ちよく譲り渡してもらえるよう、先代に敬意をもち、その気持ちをくみ取る努力が必要だという。

 三つ目は、評価額の算定が難しいことである。上場企業のように、市場の評価で決めることができず、評価額に絶対的な正解もない。情報の非対称性があるため、すべての資源を価格に織り込むことが物理的に難しい。さらに、事業への思いの強さゆえ、評価額に納得できないケースもある。

 学生服のMASAYAの場合、引き継ぎの際に在庫の棚卸しで苦労した。不良在庫の計上に関する考え方が先代夫婦と、後を継いだ山田拓也さんで異なったのである。

 先代夫婦にとっては思い入れのある事業だけに、価値のない不良在庫といわれるのは、おもしろくはないだろう。そうした感情論を超えて、合理的な着地点をみつけるのは、容易ではなかった。

 四つ目は、社内外の摩擦が生じやすいことである。中小企業では、この人の下だから働いてきたという従業員や、縁故が理由での取引先が少なくない。それまで接点がなかった人物や予想外の人物が代表者になることで、従業員が不安を感じたり、取引先が取引条件を見直したりといった摩擦が親族内承継に比べて生じやすい。

 和菓子を製造販売している有限会社あけぼの菓子舗では、工場長だった内田吉昭さんが承継した後、承継前から働いていた従業員の大半が退職した。長年一緒に働いてきた仲間で、プライベートでも一緒に食事をするなど、仲は悪くなかった。しかし、それまで同じ従業員という立場で対等に接してきた相手が、突然、代表者という上の立場になったことを、受け入れるのが難しかったようだ。

 親族であれば、従業員として働いていたとしても、いずれは後を継ぐのだろうと想像もつく。他方、親族外承継では後継者として指名された自分だけでなく、従業員にも心構えをするための時間が必要だったのではないかと内田さんは振り返る。