情と理のバランスをどうとるか

 親族外承継を成功させるには、前回挙げた課題を小さく抑え、利点を伸ばすことが重要になる。7社の事例からは、成功のポイントを少なくとも四つ指摘できる。

 一つ目は、バランスに配慮することである。事業承継には企業の歴史を築き上げてきた先代たちがいる。譲り受けた側の論理だけで経営すれば、取引先や従業員の理解は得られない。

 だからといって、先代のやり方をなぞるだけでは、時代の変化についていくことはできない。さまざまなところでどちらに天秤を傾けるか、バランスに配慮する必要が出てくる。

 例えば、情と理のバランスがある。情とは、事業に心血を注いできた先代や長い間会社と苦楽を共にしてきた従業員など、関係者への思いである。理とは、原価計算に基づく取引価格の設定など、根拠に基づく合理的な判断である。

 変えることと変えないことのバランスもある。承継した企業をかたちづくる本質的な部分を変えてしまっては、単なる経営資源の引き継ぎに過ぎなくなる。承継だからこその利点をうまく活用しながら、何を変えて何を変えないのか、反作用も考慮しつつ、ベターな組み合わせを模索するしかない。

 岐阜県飛騨市の商品に特化したECサイトの運営や販売支援事業を行う株式会社ヒダカラは、石豆富の事業を承継後に受注体制を変更した。先代は当日卸す石豆富をその日につくるため、直前まで注文を受け付けていたが、これを原則2日前までに変更したのである。

 先代が直前まで注文を受けられたのは、朝3時に起きて作業していたからだが、従業員の体力的な負担が大きかった。製法は変えないが、受注体制に余裕をもたせることで、伝統の味を守りつつ、生産量を増やすことに成功した。

豆富事業は5人で役割分担して運営(写真:ヒダカラ提供)

オープンなコミュニケーションを図る

 二つ目は、オープンなコミュニケーションを図ることである。最大限の時間をかけて丁寧に、腹を割って話し合うことが納得への近道である。コミュニケーションを図る相手は多岐にわたるが、第1は先代である。会話を通して互いに知りたい情報を引き出し、その過程で相性や人となりを知ってもらう。

 第2はそれぞれの企業の従業員である。代表者が一人ひとりの思いに直接耳を傾けることが信頼の醸成につながる。

 第3は取引先である。先代に対する信頼を後継者が引き継げるように、取引先とのコミュニケーションも欠かせない。

 金属やゴムの機能コーティングを手がける株式会社西原商工の布瀬典広さんは、従業員の考えを知るため、相談を受けた際には必ず「あなたはどうしたいのか、考えを聞かせてほしい」と問いかける。最初は答えに詰まる従業員ばかりだったが、徐々に問いかけずとも自分の意見を言うようになってきたという。

 布瀬さんは、自分の考えよりも従業員の提案の方が良いと思えば迷わず受け入れると態度で示した。承継後、権限移譲を伴う組織体制の変更などに着手したが、反対があれば従業員は臆さず代案を提案し議論できる環境が整っていたため、改革への反発は起こらなかった。

譲れない軸・判断基準をもつ

 三つ目は、判断基準をもつことである。バランスに配慮したり、オープンなコミュニケーションを図ったりするうえで、自分なりの判断基準をもつ必要がある。譲れないものは何か、どんな思いや戦略を重視するか、といった軸をあらかじめ考えておきたい。

 サイダーなどの清涼飲料水の製造販売を手がけている後藤鉱泉所の森本繁郎さんは、「地域の宝を、地域の力に。」というビジョンを掲げている。使い捨てできるワンウェイ瓶の新規導入やコラボ商品の開始には迷いもあったという。

 しかし、こうした新しい取り組みは、観光客を呼び込む材料になり、つまりビジョンに沿っていると考え、進めることに決めた。先代は森本さんのやり方を尊重し、新商品の試飲などで協力してくれたそうだ。

さまざまなコラボ商品を開発(写真:後藤鉱泉所提供)

専門家の力を借りる

 四つ目は、専門家の力を借りることである。当事者だけでは解決しきれない課題にぶつかったときに有効なのが、専門家の支援である。

 専門家の手を借りる場面の一つに、まず承継先の探索がある。親族外承継では、公的機関や民間の事業承継支援専門会社などを通して、探索の範囲を広げることが可能である。例えばアベキンの阿部隆樹さんは地元金融機関、後藤鉱泉所の森本繁郎さんは民間の事業承継支援専門会社を通じて、譲り渡し側の企業と出会っている。

 評価を行う場面でも、専門家の支援が重要な役割を果たす。企業には、銀行や従業員など多くの利害関係者がいる。資産や事業の評価などは、立場によって有利不利の基準が異なるうえに、それぞれの強い思いが絡み合う。こうした各々の事情や感情のもつれを解くのが、利害関係がなく、信頼性の高い専門家というわけだ。

 アベキンの場合は、デューデリジェンスを県内で一目置かれている税理士事務所に依頼している。地元で信頼されている第三者に評価してもらうことで、利害関係者の納得感が高まる。そのため、同社は5社を事業承継しているが、金額で折り合いがつかなかったりトラブルになったりしたことはないという。

 専門家のアドバイスを受け、株式取得に贈与を活用したケースもある。あけぼの菓子舗は、工場や店舗などの不動産は会社名義で融資を受けて買い取れたが、先代から同社への貸付金や先代名義の同社の株式を買い取る資金は外部から調達できなかった。そこで、譲る人が亡くなった際に効力を生ずる死因贈与により名義変更を行うことにした。

引き継いだ店舗兼工場(写真:あけぼの菓子舗提供)