親族外承継の三つの意義

 最後に親族外承継の意義を三つ述べておきたい。

 一つ目は、地域への波及効果である。事業承継は事業の持続可能性を確保するだけでなく、地域の持続可能性を高める効果もある。

 ヒダカラが引き継いだ豆腐店は、人口1500人に満たない岐阜県白川村にある。同社が小さな豆腐店を引き継いで地域の魅力を発信しながら売り上げを伸ばしている姿に、地域のほかの事業者は勇気づけられ、新製品の開発や販路拡大に意欲的に取り組むようになったという。

 二つ目は、経営能力のある人材の有効活用である。親族から後継者を選ぶ場合、必ずしも経営能力のある人材がいるとは限らないし、承継を望むとも限らない。親族内承継にこだわれば、経営に向いていない人がトップに立たざるを得ないケースや、廃業を選択する企業も出てくるだろう。

 しかし、親族外に候補を広げれば、事業経営を望む人のなかから、事業への適性がある人、しかもすでに有能であることがわかっている人に事業を託すことが可能になる。

 あけぼの菓子舗を継いだ内田吉昭さんは、自分が経営者になると考えたことはなかった。しかし、事業を引き継いだ後は、店舗のオペレーションを見直して経費を削減したり、洋菓子の需要が増えるイベントに合わせた商品のラインアップを増やして来店頻度を増やしたりと、経営手腕を発揮して同社の利益率を向上させた。

 三つ目は、「過小過少」の抑制である。中小企業は規模が小さく数が多い「過小過多」の状態にあるといわれてきた。しかし、これからは規模が小さく数も少ない「過小過少」になるおそれがある。

 企業数を増加ないし維持させるためには、起業を促進し開業率を高めるだけでなく、事業承継を推進し廃業率を抑制する必要があるだろう。

 ゼロベースでの起業とは異なり、事業承継には、譲り渡し側の企業や支援機関、地域社会の人々など、企業経営への参入を後押しする存在がいる。事業承継は、能力はあっても企業経営を考えていない人の掘り起こしにつながる可能性がある。

 キャリアの選択肢として事業承継が当たり前に考えられるようになれば、「過小過少」の抑制につながるのではないか。

 例えば、アベキンの阿部隆樹さんの親族外承継は一時、メディアで取り上げられて注目された。その後、いくつもの承継の話が集まったように、一つの承継が連鎖を起こすきっかけになるケースもある。事業への適性がある人の能力を複数社が享受できるようになれば、成長企業の登場にもつながるだろう。

 以上、親族外承継を成功に導くポイントと親族外承継の意義を説明してきた。さまざまな分野で活躍する中小企業が次代に引き継がれ、地域とともにさらなる飛躍を遂げる一助になれば幸いである。