先代からレシピを受け継いだカレー(写真:たがみ提供)
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(尾形 苑子:日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員)
<現・さいたま債券業務センター 上席課長代理>

中小企業の承継は「親族内」から「親族外」へ

 中小企業の後継者候補はこれまで、大半は実子、とりわけ長男だった。だが、少子化などを背景に、承継の主体は親族内から親族以外へと移行しつつある。

 承継相手が誰であれ、事業の継続を望む経営者にとって、円滑な承継が重要であることに変わりはない。ただ、目指すゴールは同じであっても、承継相手が違えば押さえるべきポイントが変わってきてもおかしくはない。とりわけ承継相手が親族か否かの違いは大きい。

 そこで、当研究所は、親族外承継にスポットライトを当てた中小企業の事例を調査した。本稿では、7社の事例企業がどのような課題にぶつかり、それをどう乗り越えたのかを紹介し、成功のポイントを示したい。

表:本連載における事業承継の定義

譲り受け側からみた承継の目的

 親族外の第三者が事業を承継する目的を整理すると、三つに分類できる。これらは排他的なものではなく、複合的なものである。事例とともにみていきたい。

 一つ目は、既存事業の継続である。中小企業は、多様な価値を提供している。雇用の受け皿となり地域のインフラを支え、地域の個性を生み出している。もし事業が消滅すれば、その価値は失われてしまう。そうした事態を避けるため、事業を引き継ごうというものである。

 米の販売を行う株式会社たがみは、カレー店を承継した。もともと同社の取引先で、たがみ代表の田上雅人さんが顧客としても通っていたカレー店だった。

 先代の店主は高齢になり、体力的に店を続けるのが難しくなったため、米の配達に訪れる田上さんに後継者の心当たりがないかを相談した。田上さんは商工会議所青年部の会長を務めた経験があり、いろいろな人に声をかけたが、候補者はみつからなかった。

 すると、先代は田上さんに事業承継を打診したという。田上さんは、まさか本気だとは思わず断ったものの、しばらくすると、いよいよ「今月閉店します」という知らせが届く。

 配達をするなかで店が繁盛している様子を知っていた田上さんは、地元で愛される店が無くなるのはもったいないと思い、引き継ぎを決めた。

引き継いだカレー店の店内(写真:たがみ提供)

 二つ目は、経営戦略上の判断である。例えば、既存事業の強化や新規事業への参入などにより事業領域の拡大をねらうケースや、サプライチェーンの川上や川下の企業を取り込んでコスト削減や供給の安定化を図るケースである。

 金属製品の製造を手がけてきた株式会社アベキンは、同じく金属製品の加工を手がける企業だけでなく、プラスチック製品を製造している企業や、木製家具をつくっている企業など、異なる専門性をもつ企業5社を引き継いだ。

 経営者としての腕を買われ、代表の阿部隆樹さんのもとには多くの企業から承継の話が舞い込む。グループとしての相乗効果を考慮し、まったく同じ製品をつくっている企業は事業承継の候補から外しているという。

 さらに、本拠地である新潟県・燕三条地域の企業だけでなく、同じくものづくりの街として有名な大阪府・東大阪地域の近くに立地する企業を承継することで、商圏も広げている。

承継後に社屋をイメージカラーの青で統一(写真:アベキン提供)

 三つ目は、個人がキャリア選択の一つとして、承継したケースである。創業や転職などさまざまなキャリアの選択肢のなかから事業承継を選択したもので、前述した二つの目的とは性質がやや異なる。

 学生服を販売する株式会社MASAYAの代表である山田拓也さんは、もともと同業他社で働いていた。転職を検討していた際、勤務先で取引のあった会社の営業担当者から、後継者を探している同社を紹介された。

 先々代夫婦から試しに店を手伝ってもらえないかと打診があり、仕事の合間に足を運ぶようになった。一緒に働くうちに先代夫婦の人柄に好感を抱き、店を残したいと思うようになった。顔合わせから半年後、後継者として同社に入社した。

店内には学生服や通学かばんが並ぶ(写真:MASAYA提供)