クオリティソフト社が開発した、山あいの地域に防災放送を届ける「アナウンサードローン」
(藤田 一郎:日本政策金融公庫総合研究所 グループリーダー)
<現・南関東創業支援センター 所長>
じわりと広がる本社機能“脱首都圏”の動き
首都圏から地方への本社機能の移転は、移転先に関する情報収集や、移転先での人材の確保など、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源に直結する課題が生じる。こうしたなか、帝国データバンク「首都圏『本社移転』動向調査(2024年)」によると、足元で企業の間で脱首都圏の動きが広がっている。さらに、このトレンドは続くと分析している。
地方への本社機能の移転で期待される効果は三つ考えられる。一つ目は、地代家賃に代表されるコストの削減である。二つ目は、防災対策である。2023年7月に閣議決定された「国土形成計画」には、巨大災害のリスクの軽減のため、地方への本社機能の分散を推進するとある。
三つ目は、従業員のエンゲージメントの向上である。ニッセイ基礎研究所「本社移転は従業員満足度にプラス効果をもたらすか?」によると、働き方改革やコミュニケーション促進を目的とした本社移転の場合、従業員の士気や風通しの良さ、従業員の相互尊重などにプラスの影響があるという。
移転によってこうした効果が期待できるのであれば、立地を自社の経営戦略と位置づける企業が出てきても不思議ではない。もちろん、企業の移転は個人の引っ越しと同じか、それ以上に負担のある取り組みである。
こうしたなか、実際に地方に移転した中小企業はどのような成果を得たのだろうか。また、移転を成功させるためのポイントは何か。
以下、東京23区から地方へ本社機能を移転した中小企業の2社の事例を紹介したい。また、連載の後編では、二つの事例から移転を成功させるためのポイントを考察する。
