迫力ある水流が見られる東山円筒分水(写真および図はすべて牧村あきこ)迫力ある水流が見られる東山円筒分水(写真および図はすべて牧村あきこ)

農地の片隅に、円形の縁から水が飛沫をあげて流れ落ちる不思議な構造物がある。これは、“円筒分水”と呼ばれ、農業用水を公平に分配するために造られた、昔からの知恵の結晶だ。涼しげな円筒分水の熱い魅力を、写真と映像とともに紹介しよう。

(牧村あきこ:土木フォトライター)

 富山県魚津市、青い稲穂が広がる水田の一角に、日本一美しいと言われる「東山円筒分水槽」がある。円筒中央部にある小さな黒い穴からあふれ出た水は、円筒の縁を越えて下の水路に勢いよく流れ落ちていく。

 動画のロングバージョン(4分39秒)はこちら。

一定比率で水を公平に分配する知恵の結晶

 気温が30度を超える夏の暑い時期でも、円筒分水の近くにくるとひんやりとした空気があたりを包む。涼をとるための噴水のようにも見える円筒分水は、農作物の生育に欠かせない水を、農地の広さに応じて分配する設備だ。

 取水源の片貝川(かたかいがわ)の水が、サイフォンの原理で円筒分水の中央部から吹き出す。円筒の外縁は定められた割合で3つに分割されていて、外縁を越えた水が別の3つの用水路に流れ出ていく。水量にかかわらず、水は円周の比率に従い公平に分配されていく仕組みだ。

円周の比率に従って水が分けられ、3つの用水路に流れていく円周の比率に従って水が分けられ、3つの用水路に流れていく

 農作物のための水争い問題を解決するため、大正時代に考案された円筒分水は、わかりやすいシンプルな構造が受け入れられ、その後改良を重ねながら日本各地に造られていった。小規模なものを含め少なくとも100以上の円筒分水が今も各地で稼働している。