大日影トンネルの特徴の一つが、途中、レールの下に排水用の水路(330m)を設けていることだ。笹子トンネルでも同様の水路があるように、地質が複雑な鉄道トンネル内で湧水への対策として見られる仕組みで、勾配を利用して排水する。現在も鉄分を多く含む水が流れている。また、勝沼側トンネル入口手前の傾斜面には煉瓦造りの水路も残り、こちらも当初から湧水へ様々な対策が講じられてきた遺構である。

線路中央に設けられた排水用の水路。天井部に見えるのは安全対策用のネットで、煉瓦が透けて見え、歴史あるトンネルの雰囲気を損ねないよう配慮している

 長いトンネルを出ると、出口(深沢側)のポータルの造形は勝沼側と異なる。切石を主体にした造りで、壁柱は4本あり、勝沼側と形状は違えどもやはり威容が感じられる。明治期の設計者や職人たちが、長く歴史に残ることを意識して技術の粋を結集したポータルは、まさに腕の見せ所であった。

勝沼側とやや異なる形状で切石積み。アーチ中央部の要石(かなめいし)部分に厳選された3個の切石が並び、トンネルの威容を示している
壁柱は両側に2本ずつあるのは珍しいが、地質が複雑で難工事の末に貫通したトンネルを支えるためのものと推察される

煉瓦トンネルの特性生かしたワインカーヴは満杯の人気

 煉瓦造りの河川隧道のある深沢川を挟んで向かいにあるのが、旧深沢トンネルだ。大日影トンネルと同時期の明治35(1902)年に竣工した全長1100mの煉瓦トンネルは、現在「勝沼トンネルワインカーヴ」として活用され、地元ワイナリ―や個人契約者などの大切なワインを保管している。四季を通して温度(12~13℃程度)、湿度(45~65%程度)が安定しているトンネル内はワインの熟成に適している。契約希望者が多く現在は満杯とのことだ。

形状は対面する大日影トンネルとほぼ同様だが、翼壁(ウイング)部分がよく残っている。両トンネルの間には谷があったため難しい工事だった
2つのトンネルの間を流れる深沢川に設けられた煉瓦の河川隧道。大日影トンネルと同様の工法・材質による頑丈な造り

 営業時間内ならば、事務所で記帳した上で、一部エリアのみ見学可能だが、取材時には許可を得てトンネルの奥まで入らせていただいた。