NHK大河ドラマ『光る君へ』で紫式部役を熱演した吉高由里子さん(左)と藤原道長役の柄本佑さんNHK大河ドラマ『光る君へ』で紫式部役を熱演した吉高由里子さん(左)と藤原道長役の柄本佑さん(2024年2月3日撮影、写真:共同通信社)

『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にしたNHK大河ドラマ『光る君へ』がフィナーレを迎えた。だが、「まだまだ平安時代に触れていたい」という人も少なくないはず。そこで、『光る君へ』では描かれなかった、平安時代を生きる歴史人物の意外な素顔について、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

ドラマのイメージとはかけ離れた藤原道長の一面

 平安時代に栄華を誇った藤原道長は、上昇志向が強く、ひたすら傲慢なワガママ貴族として描かれてきた。そんな中『光る君へ』では「実は道長にもともと出世欲はなかった」として、権力を握るまでのプロセスを周囲の人間関係も含めて丁寧に表現している。

 それは何もドラマ上の極端な脚色ともいえず、同母兄だけでも2人いた道長は、もともと出世の見込みが薄かった。姉の藤原詮子(あきこ)のバックアップや、妻の源倫子(ともこ)の血筋などが、道長を出世ルートに乗せることになったのである。ドラマでは、数々の難題にぶつかりながらも、周囲の期待に応えるべくリーダーとして成長する道長の姿が描かれた。

 とはいえ『光る君へ』での道長が実像なのかといえば、もちろんそうではない。従来の道長のイメージそのままの、いや、それをも上回る“バイオレンス道長”が垣間見られるような逸話も数多く残っている。

 道長が23歳で権中納言になり、出世の足掛かりをつかんだときのことである。道長は自分が「どうしても官人にしたい」と目をかけた学生の試験結果が良くなかったことを知ると、式部省に脅迫行為を行ったという。

 式部省とは、官人の採用や評価を職務とする機関のこと。官人採用試験も取り仕切っているため、道長は使者たちに命じて、式部省で働く試験官の橘淑信(たちばなのよしのぶ)を自宅に拉致。試験結果を操作するように迫ったという。

 しかも、自身の邸宅まで移動させるときに、道長は橘淑信を自分の足で歩かせている。当時の貴族は、罪を犯して連行されるときでさえ、牛車に乗せるのが慣例だったことを思うと、さぞ屈辱的だったに違いない。この拉致脅迫事件はすぐさま世間に広がり、道長は父の兼家から激しく叱責されることとなった。

 何も若気の至りでそんな暴走をしたわけではなく、48歳のときにも道長は、前摂津守の藤原方正(まさただ)と前出雲守の紀忠道(きのただみち)らを自邸の小屋に監禁している。その理由は「妻の外出の準備を手際よく進めることができなかったから」だったとか。

 さらに同年、祇園御霊会という祭礼において、行列に参加していた散楽人たちが、衣装を破損するほどの暴行を突然受けている。これも道長の命令を受けた使者が行ったものだったという。

 なぜ、そんなことをしたのか。『光る君へ』でうまく文脈を作って、物語に入れ込んでほしかったが、さすがに難しかったらしい。道長には「光源氏」のモデルだという説があるが、実際はそんなイメージとはかけ離れた暴力性を持っていたのである。