大宰府で最も早くに増設された水城跡大宰府で最も早くに増設された水城跡(写真:アフロ)

『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第47回「哀しくとも」では、大宰府で「刀伊の入寇」に巻き込まれたまひろ(紫式部)が、敵に殺された宋人の周明を悼んで、大宰府にとどまっていた。従者・乙丸の説得で都に帰ったまひろだったが、道長の妻・倫子に呼び出されて……。『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

オリジナルキャラが躍動した今回の大河ドラマ

 大河ドラマ史上、初めてのことではないだろうか。最終回を目前にして、主人公がここからどんな運命をたどるのかが分からないのだ。主人公とはまひろ、つまり、紫式部のことである。

 これが例えば、昨年の大河『どうする家康』であれば、家康がどんな最期を迎えるのか、また臨終に向けてどんな晩年を過ごすのかが大体分かっていた。ほかの歴史人物も同様で、大河で主役になるくらいのビッグネームであれば、史料も比較的豊富なため、足取りをつかめていることがほとんどだろう。

 ところが、紫式部の没年には諸説あり、しかも最短で長和3(1014)年、最長で長元4(1031)年と非常に幅がある。晩年についてもよく分かっていない。先が読めないがゆえに、最終回まで目を離すことができないという、ドラマとしては理想的な状況といえよう。

 そんな自由度が高い状況が存分に生かされており、まひろは不意に大宰府に旅に出たかと思うと、異民族の襲来に巻き込まれるという、アバンギャルドな展開となった。

 行動が読めないと言えば、実在しないオリジナルキャラクターもまたそうである。今回は2人のオリジナルキャラクターが躍動している。

 ひときわ存在感を放ったのが、矢部太郎演じる従者の乙丸である。異民族の矢に討たれた宋人・周明の死を悼んで大宰府にとどまり続けるまひろに対して、乙丸が「帰りたい!」と13度も繰り返して訴える様はSNSでも話題になった。「お方さまも一緒でなければ嫌でございます」と言い張り、まひろの足を京都へと向かわせている。

 乙丸と同じくオリジナルキャラクターである若武者・双寿丸も、まひろが前向きになるのに一役買っている。伊藤健太郎演じる双寿丸は、まひろの娘・賢子の思い人だったが、武功を立てるために大宰府へ。偶然にも旅に来ていたまひろと再会することになった。

 周明が亡くなって以来、失意に沈むまひろに「調子はどうだ?」と声をかけた双寿丸。「早く健やかになってくれ。そうでないと周明とて成仏できないぞ」と不器用ながらも、まひろを励ましている。

 オリジナルキャラクターに妙なリアリティーがあるのは、実存する人物との関係を巧みに持たせているからだろう。