完全自動運転の「ロボタクシー」への対応が分かれ始めた。米ゼネラル・モーターズ(GM)とホンダは撤退を決める一方、テスラは新規参入しグーグル系のウェイモはサービスを広げている。撤退か、推進か、異なる経営判断の背景には、「コスパ」をめぐる感覚の違いがありそうだ。
(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)
都心や地方を問わず、完全自動運転のロボットタクシーが走り回る。もはやドライバー不足に悩まされることもなく、高度な技術で事故を未然に防ぎ人間よりも安全——。
そんな社会の未来図を描く国や企業は少なくない。
ところが、ここへ来てロボットタクシー業界に異変が生じている。
直近では、アメリカのゼネラル・モーターズ(以下、GM)が12月10日、ロボットタクシー事業開発から撤退を表明した。今後は、一般車両向けのADAS(先進運転支援システム)の強化に経営リソースを優先して投入する。
GMは2013年創業のスタートアップ、クルーズを16年に買収。ホンダを巻き込んでジョイントベンチャーを設立し、ロボットタクシーの社会実装に向けた研究開発を進めてきた。
ホンダもこの事業に乗り気だった。
2023年10月には、ホンダの東京・青山本社で、GM、クルーズと共同記者会見を開き、2026年前半に都内での導入を皮切りに、全国各地での需要を掘り起こすという事業構想を明らかにした。
だが、その会見の少し前、カリフォルニア州サンフランシスコの公道でクルーズの車両が歩行者に対する人身事故を起こしていた。事故原因の調査のため、地元警察当局の指示に従いGMクルーズはロボットタクシーの運用を一時中断していた時期だった。
それでも、同じ10月に開催された第1回ジャパンモビリティショーに、ホンダはGMクルーズと共同開発していたロボットタクシー専用車両「オリジン」を日本初公開している。
その際、筆者は同プロジェクトに関わるホンダの技術者から、GMやクルーズとの開発の進捗について詳しく話を聞いている。
ホンダの担当エンジニアは、アメリカでの事故はGMとクルーズで検証中と前置きをした上で、日本では栃木県内のホンダ研究拠点の敷地内やその周辺の一般道路を使い、アメリカで使用されているロボットタクシーを日本の道路事情に合わせて改良を進めていることを明らかにした。
ところが、あれから1年ちょっとで、今回のGMによるロボットタクシー事業からの撤退が発表されたのだ。
これを受けて、大手通信社などが「ホンダもロボットタクシー事業から撤退」と報道したが、ホンダからは正式なニュースリリースは出なかった。
そこで、筆者は本件の事実確認のため、ホンダ本社に問い合わせた。