米タイム誌の「今年の人」に選ばれたトランプ氏(12月12日米証券取引所で行われた同イベントに出席、写真:AP/アフロ)

1100万人捜索、収容、送還に米軍を投入

 ドナルド・トランプ次期米大統領が、選挙公約で政権発足初日に実施すると言ってきた不法移民の大量強制送還の全容が明らかになってきた。

 具体的にどうするのか、かかる費用はどのくらいか。

 不法移民たちは戦々恐々だ。

 不法移民が一番多い出身国・メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は「そうならないことを望んでいるが、その時は、メキシコ人だけは帰国を受け入れる」と及び腰だ。

 トランプ氏は、かつての小泉純一郎首相のように政策やメッセージをひと言で表現する「ワンフレーズ・ポリティクス」の名人だ。

 ひと言バサっと言うだけだが、詳しくは分からない。

 トランプ氏に代わって、同氏が不法移民送還作戦の第一線の責任者に指名したトム・ホマン移民関税捜査局(ICE)局長(63)*1がメディアとのインタビューで詳細に述べている。

*1=ホマン氏は警官出身で、ICEではメキシコ国境の不法移民対策を下積み時代から手掛け、2013年にICE局長上級補佐官に指名され、トランプ政権では2017年から18年まで局長代行を務めた。「私の声はトランプ大統領の声だ」と公言してはばからない。

 ホマン氏によれば、トランプ政権の大量強制送還作戦はこうだ。

一、トランプ政権は、1期目で掲げた「Zero Tolerance」(不寛容型政策)を掲げ、不法移民に対しては法律違反者を容赦なく罰する。

二、不法移民は米国の国家安全保障上、国内治安上の脅威である。特にその中にはギャング組織が潜り込んでおり、麻薬、犯罪、売春、社会不安を米国内に持ち込んでいる。

三、不法移民送還作戦には連邦軍を投入し、不法移民の摘発、収容、輸送などその機動力を活用する。

四、またハイテク企業など民間企業が有する情報収集・通信技術の提供、州郡市町村の警察組織の協力を要請する。

五、トランプ政権の不法移民強制送還作戦に従わない者には司法長官が起訴、司法措置をとる。

六、不法移民の出身国に対しては受け入れを要求、拒否する場合にはその国からの輸入品に対する関税引き上げなどの経済的制裁を加える。

七、両親が米国籍を持たなくても米国内で生まれた子供に自動的に国籍を与える「出生地主義」を廃止する。

八、不法移民が米国滞在中に生まれた子女が引き続き米国に滞在できるかどうかの事案については民主党と協議する。両親と離れるのが嫌であれば、両親と一緒に国外に送還されればいい。

 これらの措置の中には、出生地主義や連邦軍の国内投入など米国憲法に違反する事案もあり、議会の承認が必要であり、すんなり実施できないものが少なくない。