『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第44回「望月の夜」では、藤原道長から譲位を迫られた三条天皇が、自身の娘と道長の息子・頼通を結婚させようと提案。形だけでも受け入れようとした道長だったが、息子から反発を受けてしまい……。『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
娘から「酒浸り」になったワケを聞かされて動揺する道長
あからさまに落胆したらしい。長和2(1013)年7月6日、自身の次女・妍子(きよこ)が三条天皇との間に、禎子(よしこ)内親王を産んだときに、藤原道長がとったリアクションのことだ。
『小右記』によると、藤原実資は養子である資平(すけひら)から、道長の様子について次のように報告を受けたのだという。
「相府、已に卿相・宮の殿人等に見給はず。悦ばざる気色、甚だ露はなり」
(道長殿は、公卿や中宮の殿人にまったく会っておられません。あからさまにお喜びではない様子でした)
長女の彰子が一条天皇との間に、第2皇子の敦成(あつひら)親王と第3皇子の敦良(あつなが)親王と、立て続けに皇子を産んだだけに、道長もつい期待が高まってしまったのだろう。
しかし、せっかく孫が生まれたのに喜んでもらえないのは、娘の立場からすればショックだったに違いない。今回の放送では「お顔を見に参りました、中宮様と内親王様の。かわいらしくお育ちになられましたな」といって訪ねてきた道長に、倉沢杏菜演じる妍子がこう言い放つ場面があった。
「何を今さら。父上は禎子が生まれたとき、御子ではないのか、といたく気を落とされたと聞きました」
さらに妍子は「父上の道具として年の離れた帝に入内し、皇子も産めなかった私の唯一の慰めは、ぜいたくと酒なのでございます」とも言って道長を絶句させている。
妍子は姉の彰子とはタイプが違い、酒好きで派手だったといわれている。それだけに、ドラマではネガティブな人物描写がなされるのかと思いきや、彼女の置かれた境遇に同情した描き方になっていて、妙に説得力があった。