大日影トンネルは過去に内部修復工事が施されるまで立入禁止だった。竣工から120年を超えるトンネルの天井部に安全対策として鋼製のネットを設置し、この鉄道遺産の歴史を広く知ってもらうことを目的として、甲州市が遊歩道として整備した。
個人的な欲を言えば、過去の大日影トンネルの橙色の照明が煉瓦トンネルの雰囲気にベストマッチだったので、やや明るすぎる感はある。ただ、1km以上の長いトンネルゆえに、照明施設を長持ちさせる上でこの選択はやむを得ないと推察する。
SL時代を偲ばせるトンネル側壁にこびりついた煤
トンネルは直線で、入口からはるか先に出口の明かりが見える。トンネル内に残る当時の勾配標に「1000分の25」(1kmで25m上る)と示されているように勝沼側から上り勾配が続く。
待避所の数は、保線員の休憩も可能な大型のものが2カ所、鉄道電話を備えた中規模なものが5カ所、小規模が29カ所で、計36カ所もあり、このトンネルのスケールの大きさを物語る。
延々と続く側壁の煉瓦には電化前のSL(蒸気機関車)の煤がこびりついており、長いトンネルが連続するこの区間で、SLの乗務員や保線員は煤煙に巻かれるリスクと闘いながらの毎日であったことを思わせる。
また、大型の待避所内には休憩用のベンチも置かれている。トンネル出口から「ぶどう寺」として知られる大善寺を経て「ぶどう郷遊歩道」を歩いて駅に戻るコースもある。