リニア中央新幹線のトンネル工事で発生する土砂は…

 田代ダムでは、県境にある峠をくりぬいて山梨県側に水を落とし、800メートルを超える落差を用いて発電する。大井川の上流なので利用できる水量は毎秒5トン以下と少ないが、これだけ落差があると発電量としてはかなり稼げる。

 田代ダムよりやや上流に建設された二軒小屋発電所では、発電所は地下に設置されており、そこに行くためのトンネルを通っていかねばならない。

 畑薙第一ダムでは、外見ではコンクリートの塊に見えるダムの堤体が中空になっていて、その中に水圧鉄管が設置してある。いずれも先人がそれぞれの地形に合わせて知恵を絞った跡だ。

 二軒小屋発電所は、ちょうどほぼその真下をリニア中央新幹線のトンネルが通る予定になっている。リニアといえば、静岡県の川勝平太・前知事が水問題などを理由に猛烈に反対していたが、新しい鈴木康友知事になってからは早期着工に向け調整が進展している。

 いま論点のひとつになっているのは、トンネル工事をする際に発生する土砂の置き場である。

 JR東海の計画では、370万立方メートルほど発生する土砂のうち、そのほとんどとなる360万立方メートルをトンネルから3キロメートルほど大井川沿いに下ったツバクロ地区に盛り土するとしている。

 360万立方メートルというとかなりの規模に思えるが、土木工事ではこの程度の盛り土をすることは珍しくない。新東名高速道路の清水パーキングエリアでもほぼ同規模の350万立方メートルの盛土をしている。富士山静岡空港ではさらに大規模となる2600万立方メートルもの盛土をしている。

 またツバクロの盛土の地点は、かつて発電所の建設のための骨材工場に利用されたものであって、原生の自然ではない場所を選んでいる。自動車で行ってみると、建設工事の終了後に更地に戻した上に植林もされたので、いまでは樹木が鬱蒼と繁っている。リニアのためにまた新たな盛土をしても、やがて年を経れば青々とした風景に戻すことができるだろう。