大井川の上流にある井川ダム。筆者撮影大井川の上流にある井川ダム。筆者撮影

地球温暖化対策として再生可能エネルギーがもてはやされているが、我々はこれまでも発電時にCO2を排出しないエネルギー源を活用してきた。水力発電だ。今回、水量が豊富で、昭和初期から水力発電に利用されてきた大井川のダムと水力発電所を訪ねる機会があった。先人たちが取り組んだ「元祖再エネ」の現場の様子をお伝えする。

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

暴れ川で砂利が深い大井川

 大井川のダムと水力発電所を訪れた。まずはかつての宿場町である島田(静岡県島田市)に東海道線で入る。

箱根八里は馬でも越すが
越すに越されぬ大井川 

と、箱根馬子唄(よみびとしらず)にも詠まれている土地だ。

 江戸時代の大井川には橋がなく、そのため雨が降ると、旅人は宿場町で1週間も足止めになることがあった。不便な話だが、お陰で島田の街はおおいに繁盛した。

 足止めされた人々の気を晴らそうとする一心で、浪人武士がご法度の賭け試合をしてしまうという山本周五郎の小説『雨あがる』は私の一番好きな小説だが、寺尾聡を主役にした映画を黒沢明監督が撮影したロケ地はこの大井川近辺だったという。

 橋を架けなかった理由としては、江戸へ攻め上る兵隊を防ぐためだったとの説をよく聞くが、実は大井川は暴れ川なうえに堆積した砂利も深く、当時の技術では架橋が難しかったようだ

 このため渡河は人力に頼ることになり、人足が肩車をしたり、輿に載せたりして旅客を運んだ。水量が多すぎると渡れないが、4尺5寸(=1メートル36センチ)以下であれば渡河したという。