日本の土木は、本当に素晴らしい! 「魅せる土木」を提唱して執筆と講演を行っている、東京都市大学の吉川弘道名誉教授が、選りすぐりの写真やイラストで“土木の名場面”を綴った書籍『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』を刊行した。その中で取り上げている土木構造物のなかから、土木技術のすごさと美しさを実感できる例として、揚水発電所と余部鉄橋を2回に分けて紹介する。(JBpress)
(吉川弘道:東京都市大学名誉教授)
※本稿は『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』(吉川弘道著、平凡社)より一部抜粋・再編集したものです。
水の位置エネルギーを利用して蓄電する
揚水発電(pumping-up hydraulicpower generation)は人類が発明した画期的な大規模蓄電施設である。
原理はシンプルだ。高低差をもつ上部と下部の2つの調整池を建設し、これらを水路で連結し、中間部の発電所で発電する。これにより、夜間電力の余裕分によって下部調整池より上部調整池に水を汲み上げ貯蔵、昼間の電力ピーク時に上部調整池から下部調整池に水を流下させて発電することで、日変動の調整と安定供給に役立っている(図1)。一体誰が最初に考えたか定かではないが、大電力消費地を賄う救世主となっていることは間違いない。
ただ、揚水発電の発電効率についても留意する必要がある。
「揚水発電は、揚水時、発電時の両損失が加算されて、総合効率は65~75%程度となり、揚水することによってエネルギーは減少するが、火力・原子力発電の深夜余力などを利用して、このエネルギーをピーク時の電力に転換することにより、調整式と同様の優れた調整能力を有し、価値の高いエネルギーが得られる(後略)。」(出典:電力広域的運営推進機関occto資料)
摩擦や空気抵抗のないジェットコースターならば、ひとたび位置エネルギーが与えられれば永遠にアップダウンを繰り返す。だが実際には、走行時のエネルギー損失により元の高さには戻らない、それと同様の仕組みである。
昭和期、平成期に我が国全土に多くの揚水式発電所が建設・運用されたが、ここでは横綱級の3施設について、貴重な提供画像をまじえて、揚水式発電所の仕組みを紹介したい。
北海道・京極発電所
最初に紹介する京極(きょうごく)発電所(北海道虻田郡京極町)は、北海道電力が満を持して建設した最新の純揚水式発電所(平成26年度土木学会賞技術賞、平成29年度土木学会賞環境賞)。
京極町北部の台地に設置したプール形式の上部調整池、京極町を流れる尻別川水系ペーペナイ川上流部に設置した京極ダム(下部調整池)間の総落差約400mを利用して、最大出力60万kW(20万kW×3台)を発電する(20万kWで一般家庭の電力使用量に換算すると約7万世帯分をカバーできる)。