日本の土木は、本当に素晴らしい! 「魅せる土木」を提唱して執筆と講演を行っている、東京都市大学の吉川弘道名誉教授が、選りすぐりの写真やイラストで“土木の名場面”を綴った書籍『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』を刊行した。その中で取り上げている土木構造物のなかから、土木技術のすごさと美しさを実感できる例として、余部鉄橋と揚水発電所を2回に分けて紹介する。(JBpress)
(吉川弘道:東京都市大学名誉教授)
※本稿は『DISCOVER DOBOKU 土木が好きになる22の物語』(吉川弘道著、平凡社)より一部抜粋・再編集したものです。
赤色の鉄橋からコンクリート橋へ架け替え
日本海に面した谷あいに突如として現れる余部(あまるべ)鉄橋。赤色の鉄橋が凜々しい往時の風景を懐かしむ鉄道ファンは多い。明治45年(1912年)に建設されたJR山陰本線余部鉄橋(兵庫県香美町)は、当時、東洋随一の鋼トレッスル橋(steel trestle bridge、鉄骨をやぐら状に組み上げた橋脚)として多くの人々に親しまれ利用されていた(写真1、2)。
戦後、地元の要望のもと餘部(あまるべ)駅(現在も旧字体が使われている)が開設され、利用客の利便性が改善された。一方では、日本海沿岸の厳しい気象条件を受け、遅延・運休が頻発していた。加えて、昭和61年(1986年)に列車転落事故が発生し、平成期に入ると余部鉄橋対策協議会が発足した。
100年にわたり当地の厳しい風雪に耐えて命脈を保った橋梁も、「安全輸送の確保」と「現実的な維持管理」の観点から、コンクリート橋への架け替えが決定された。平成19年(2007年)から工事が開始され、3年半の歳月をかけ、現在の新橋が完成した。新余部橋梁は最先端のPC(プレストレストコンクリート)橋梁技術を駆使し、PCエクストラドーズド橋(PC extradosed bridge)として再出発したのだ(写真3)。