タブレットと紙を使って学ぶ生徒=イメージ(図:milatas/Shutterstock.com)

文科省の諮問機関である中央教育審議会の作業部会が「デジタル教科書」を正式な教科書として認める方針を示した。デジタル教科書は現在、紙の教科書の「代替教材」という位置付けだが、次期学習指導要領が実施される2030年度をめどに正式な教科書として導入される見込みだ。この文科省の方針を「拙速」として真っ向から反対するのが東京大学大学院教授で言語脳科学者の酒井邦嘉氏だ。酒井氏によるとタブレットなどでの学習は記憶に定着しづらく、学力が落ちる危険性があるという。2回に分けてインタビューを掲載する。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

>>(前編から読む)デジタル教科書で日本人はバカになる?脳科学が証明、タブレット&キーボードで「分かった気になる」子どもが増える

「導入ありき」で実証実験をしていない

──文科省は2023年度に『学習用デジタル教科書の使用頻度と授業内容の理解度の関連性』について、大規模なアンケート調査(小学校中高学年n=10,633、中学生n=13,250)を実施しました。グラフを見ると、「デジタル教科書を授業でよく使う生徒の方が、使わない生徒よりも理解度が高い」という風にも読み取ることができます。

(図:文部科学省のHPより)
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酒井邦嘉・東京大学大学院総合文化研究科教授(以下、敬称略):現在のデジタル教科書の導入の是非を巡る議論とそれの裏付けに関しては、「いかにデジタル教科書を導入するか」に主眼が置かれ、「デジタル教科書を導入することによる弊害やリスクはないのか」という視点がおざなりになっています。

酒井 邦嘉(さかい・くによし) 言語脳科学者
1964年、東京都生まれ。東京大学医学部助手、ハーバード大学リサーチフェロー、マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学大学院総合文化研究科助教授・助教授を経て、2012年に同教授。02年に「言語の脳科学」(中公新書)で第56回毎日出版文化賞受賞。近著に「デジタル脳クライシス――AI時代をどう生きるか」 (朝日新書)など

 例えばこのアンケート調査では、「デジタル教科書をどの科目で、どれくらいの時間、どのように活用したのか」という定量的な視点がありません。しかも、「理解度」についてデジタルと紙の教科書で比較した実証実験ではなく、生徒の印象を尋ねただけにすぎません。それに、「当てはまる」と「どちらかと言えば、あてはまる」という割合の間には、一定の傾向が認められません。

──ずいぶん雑な調査のように感じてきました。