大学無償化をしてはいけない?(写真:beeboys/Shutterstock.com)

2025年から「大学無償化」が始まる。3人以上の子どもがいる「多子世帯」という条件付きだが、私立の理工農系学部進学者向けの学費減免などすでに始まっている制度と合わせて段階的に支援が拡大してきた。教育費の高騰や少子化の進行を受け、「大学の授業料はすべて無償にすべきではないか」とする主張も根強い。この意見に真っ向から反対するのが明治大学政治経済学部の飯田泰之教授だ。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

「助成金ありき」の大学運営は危険

──2025年から多子世帯向けの大学無償化が始まります。飯田さんは「全面的な大学無償化」に反対する立場ですが、なぜでしょうか。

飯田泰之氏(以下、敬称略):まず大前提としてご理解いただきたいのは、私は教育経済学の専門ではありません。財政金融政策が専門です。

 その一方で、大学無償化問題は大学教員にとって発言しづらい話題です。自身の仕事に関わることですから、専門家ほど発言しにくい。むしろ専門外の私の方が話しやすい面がある。

 少子化で大学の存続が危ぶまれる大学もある。だからこそ、大学側のロジックとしては「どんな手を使ってもいいから学生を集めて、助成金を受けること」を支持したくなるという面はあるでしょう。しかし、無償化が中長期的には大学の、そして日本における研究の首を自ら絞めることになります。

 まず、問題なのが大学無償化が「大学側の制度ハック」を可能にしてしまうことです。現在、政府は国立大・私立大に対して助成金(国立大学法人運営費交付金・私立大学等経常費補助金など)を提供していますが、仮に大学の授業料が完全無償化されると、学費相当分が税財源の公的資金になります。

飯田 泰之(いいだ・やすゆき) 明治大学政治経済学部教授
専門はマクロ経済学,経済政策,地域経済。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、総務省自治体戦略2040構想研究会委員などを歴任。著書『財政・金融政策の転換点―日本経済の再生プラン』(中央公論新社 2023)など多数。

 極端なケースでは「ウチの大学に入学すると『ディズニーランドの年間パス』をプレゼントします」「高級ゲーミングパソコンをプレゼントします」といった施策で学生を集めれば良い。

 また、リアルの授業を受けたくない学生に向けて「私たちは、フルリモートで授業を完結します」と訴求する大学も出てくるでしょう。これらの施策は、大学の教育面での役割である「学生の資質・能力を向上させる」ことに合致していると言えるでしょうか?

 こうした施策は極端だ、と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、現実として、助成金を受け取るために所在不明の留学生を大量に受け入れていた大学もあります。「助成金ありき」で大学を運営することの危険性がよく分かるのではないでしょうか。

 問題は、こうした下劣な運営をする大学が出てくる可能性だけにとどまりません。大学を無償化し、制度ハックが可能になると、今度は逆に大学の多様性を損なうことにも繋がりかねないのです。

──なぜでしょうか。