- 少子化は危機的水準に達している。2023年1〜11月の出生数は前年同期比5.3%減の69万6886人。通年では過去最低となる見込みだ。
- 社会保障が専門の高千穂大学の大山典宏教授は「子どもの数を増やすためには、高校を含む大学までの高等教育を一律で無償化するべきだ」と提言する。
- 結婚適齢期世代が婚姻・出産を控える大きな理由の1つに「経済的な不安」があるという。少子化トレンドを反転させることは可能なのか。
(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)
「多子世帯の大学無償化」では不十分
──大学までの高等教育を一律で無償化するくらいの大胆な少子化対策をしないと効果がないと主張されています。その理由は?
大山典宏・高千穂大学教授(以下、敬称略):まず、私の専門は社会保障で教育政策の専門家ではないことをご了承ください。その上で、なぜ高校・大学の無償化が出生数増につながる可能性があると考えるか、理由をお話しします。
現在の出産適齢期世代が結婚しない、子どもを産まないという選択をする大きな理由の1つが「経済的に不安だから」というものです。経済的な不安を因数分解すると、「教育費に対する不安」が大きい。その不安は決して茫漠としたものではありません。大卒者と高卒者では生涯賃金に大きな差が生まれているという、厳然たる事実が背景にあります。
「子どもには少しでも安定した生活を送ってほしい、そのためには大学まで行かせないといけない」「高額な教育費が必要だ、子どもを産むのは控えよう」と考えるのは親としての人情でしょう。
出生数の増加を目指すのであれば、教育政策を「社会保障」として捉えた上で、高校・大学の学費・授業料を全て無償化する、というほどの抜本的な改革が必要だと思います。教育費が出産・子育てのネックになっている以上、この問題をタブーにしては少子化の議論はできません。
私は、社会保障の研究者として「大きな政府」を支持する者です。病気になった人を支えるために健康保険料を払い、介護が必要な人のために介護保険料を払っているように、子どもが産まれたら「ありがとう」と、国民全体で支えるような仕組みをつくらなければいけないと考えています。少子化が止まらない最大の理由は、若者にお金が回っておらず出産どころか結婚も考えられなくなっているからです。
政府は「多子世帯の大学無償化」という折衷案を出していますが、危機感が足りません。親の世帯年収に関わらず、全ての子どもが自ら望めば高いレベルの教育を受けるような社会をつくっていかなければ、少子化は加速するばかりでしょう。
──所得が少ない世帯向けの各種奨学金制度もあります。返済が必要となるものの、こうした制度を使えば現状でも幅広い層が高等教育を受けることは可能なのではないでしょうか。