2021 MLBオールスター出場の記者会見をする大谷翔平(写真:AP/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 大谷翔平がメジャーリーグのホームラン争いで独走をしている。日本の多くのファンが毎朝起きるのを楽しみにしているようだ。わたしもその一人である。

 今日も打ったか? もしくは、今日は抑えたか? 毎日、コロナ禍やワクチン問題や五輪でうろたえる政治家や、醜く浅ましい犯罪など、ろくでもないニュースばかりで気が滅入る日々にあって、唯一、大谷翔平の活躍だけが明るいニュースであり、希望である。

 日本のマスコミの常套句である「全米熱狂」「全米震撼」「全米騒然」は、ほとんどの場合客引きのための空騒ぎにすぎないが、今回は初めて実態が伴ってきたようである。アメリカのメディアが「(大谷は)惑星一」「人間じゃない」「世界最高の選手」と驚きを隠さない。アメリカの野球人口は減少し、MLB(メジャーリーグベースボール)人気も低迷しているといわれるが、大谷フィーバー(古いなあ)はMLBにとっても喜ばしいことだろう。大谷は日本人として初めて「ESPYアワード」の「最優秀MLB選手」にも選ばれた。

わたしが目にする4人目の天才

 今から20年前、イチローが大活躍をしてアメリカ人の度肝をぬいた。かれの超人的な走攻守の技術を見て、アメリカ人は改めて野球がもつ本来のおもしろさに気づかされたという通好みの評価がなされたものだ。だが今回、大谷の快進撃でわかったことは、なんだかんだいっても、アメリカ人(だけではないが)はやはり豪快なホームランが大好きだということである。

30号となる2ランホームランを打った大谷翔平(2021年7月2日、写真:アフロ)

 身長193センチ、体重96キロの偉丈夫。顔は小顔でベビーフェイスなのに、投げては時速160キロ、打っては飛距離140メートルを叩き出し、走っても俊足で、投手のくせに盗塁をする。スライディングもする。外野守備もする。そのうえ人間性も秀でている。人間的要素のギャップがいくつも衝突し合っているのに、天から四物も五物も与えられた完璧体。辻井伸行、藤井聡太、イチローにつづいて、わたしが目にする4人目の天才である。こういう人が出てくるんだなあ。

 野茂英雄は孤独なパイオニア、イチローは孤高、松井秀喜はニューヨークでの人気者だった。しかし大谷翔平ほどチームメイトに愛されている選手は初めてではないか(エンゼルスの選手がお辞儀パフォーマンスをしないのもいい)。アメリカの野球少年たちにとっては、野茂もイチローも憧れの存在だっただろう。しかし大谷翔平人気はもう少し下の少年少女までを巻き込んでいるように見える。スーパーマン的ヒーローなのだ。