注目される一挙手一投足

 大谷の一挙手一投足が注目される。相手打者の割れたバットを拾い上げて渡す。グリップのほうをバットボーイに向けて渡してあげる。外野で練習中、観客がグラウンドに落としたサングラスを投げ返してあげる。打席に入るとき帽子のツバに触って審判に挨拶をする。四球で一塁へ歩く途中、落ちていたゴミを拾って尻ポケットに入れる。審判に粘着物検査をされても笑顔で応える。負け試合の9回2死で1塁ゴロを打っても全力疾走をする。ダルビッシュや澤村の元へ挨拶に行く。相手投手が大谷を焦らそうと、足をぶらぶらさせたりして投げるような投げないような牛歩投球をすると大谷苦笑。何事に遭遇しても屈託なく笑う。

試合途中、帽子とグラブに不審物がないかのチェックをMLB審判から受け、笑顔で応対する大谷翔平(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 そんな大谷のエピソードのなかでも、わたしが好きな場面はこれだ。敵チームのファンの少年にサインをしてやる。かれが「バットちょうだい」とねだる。大谷の「あげねーよ」がいい。しかし、そのあと少年のもとにバットをもってかけつける。

 こういう行為にたいして、ファンからは次のようなツイートが寄せられる。「He is gentlemen.」「This is Shohei.」「nice guy」「amazingly kind(驚くほど親切だ)」。どれだけ、アメリカには紳士や親切がすくないのだ。

 考えてみれば、大谷は10年前はまだ花巻東高の1年生だった。野球部の佐々木洋監督は部員たちに目標達成シートを書くよう勧めた。3×3の9枡が9個集まって全81項目のシートを構成している。大谷はその真ん中の9枡の中心に「ドラ1 8球団」と書いている。3年後には8球団にドラフト1位で指名されるような選手になること、というのが最大の目標である。その真ん中の9枡は、「ドラ1 8球団」を中心に、外側を「体づくり」「コントロール」「キレ」「スピード160km/h」「変化球」「運」「人間性」「メンタル」が囲んでいる(https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/02/02/gazo/G20130202005109500.html)。

 大半は投球や打撃の技術と心身の成長に関する目標である。ただ大谷の特徴は「運」と「人間性」を重視しているところである。「運」のなかには「あいさつ」「ゴミ拾い」「部屋そうじ」「審判さんへの態度」「本を読む」「応援される人間になる」「プラス思考」「道具を大切に使う」を入れ、「人間性」のなかには「計画性」「感謝」「継続力」「信頼される人間」「礼儀」「思いやり」「感性」「愛される人間」を入れ、「メンタル」のなかには「一喜一憂しない」「頭は冷静に心は熱く」「雰囲気に流されない」「仲間を思いやる心」などを入れている。