ブリュッセルでフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(右)と会談するサンドゥ・モルドバ大統領(12月10日、モルドバ大統領府のサイトより)

極寒の中でエネルギー危機勃発か

 新年早々、ドニエストル両岸(モルドバと沿ドニエストル)でエネルギー危機に陥る可能性が出ている。

 2025年度の天然ガス供給をめぐり、ロシア・ガスプロム社とモルドバガス社との契約交渉が難航していることが主因だが、問題は天然ガスだけに限らない。

 モルドバ・ロシア間のガス契約はモルドバから事実上分離独立状態にある沿ドニエストル分も含むため、未契約ならば新年早々に沿ドニエストルはガス欠となる。

 沿ドニエストルの火力発電所はモルドバの電力需要の8割を担っているため、沿ドニエストルのガス欠はモルドバのブラックアウトにつながりかねない。

 本問題は、ステレオタイプ的な「ロシアによるモルドバいじめ」に見えるが、実際は沿ドニエストル援助を続けたいロシアと、沿ドニエストルとの再統合を加速する契機としたいモルドバとのせめぎ合いである。

拡大図の濃い赤色の部分が沿ドニエストル

問題の構造

 沿ドニエストルと呼ばれるドニエストル川左岸はモルドバ社会主義ソビエト共和国の一部であったが、ソ連末期のモルドバ化に抵抗し武力衝突に発展、今日に至るまで事実上の分離独立を維持している。

 沿ドニエストル存続の命綱はロシアによる軍事的・経済的・政治的支援である。

 しかし沿ドニエストルはウクライナとモルドバに挟まれた内陸地でありロシアと境界線を接していないため、直接的な支援は難しい。

 こうした地理的制約を克服するため、沿ドニエストル域内にある火力発電所、すなわちモルドバ地区火力発電所(MGRES)が活用されている。

 この発電所はソ連時代に建設された巨大な火力発電所であり域内消費をはるかに上回る発電能力を持つ。

 この発電所を利用した巧妙な沿ドニエストル支援の仕組みは次の通りだ。