●沿ドニエストルが「輸入」したガスの半分以上は域内の火力発電所の燃料となる。

 発電された「安価な」電力は域内の住民・産業で消費されるだけでなく対岸のモルドバに輸出される。

 今日、沿ドニエストルの貿易輸出額の3~4割は電力輸出が稼いでいる。

 さらに言えば、同じく輸出額の3割を叩き出す鉄鋼業も電気炉を用いているため、沿ドニエストルは安い天然ガス~発電に完全に特化した経済構造となっている。

 一方で、電力自給率が低くかつ貧しいモルドバは、沿ドニエストル産の安い電力に頼り切っている。

 直近2024年第3四半期統計では、モルドバの電力需要の8割が沿ドニエストル産であった。

モルドバの電力供給源(単位: 百万kWh )

出所:モルドバ国家エネルギー規制委員会

 この仕組みにより、モルドバは安い電力を、沿ドニエストルは域内経済の肝である天然ガスをそれぞれ享受でき、ロシアはモルドバを抱き込むことで沿ドニエストルに安定して天然ガスを流し込んで支援することが可能となる。

 ただし、沿ドニエストル消費分の天然ガス料金は未回収のため、年10億ドル前後がロシアの負担となる。

 沿ドニエストルを経済的に支援するのにロシアは年10億ドル以上を費やしている、と言い換えることもできる。