今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。
写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登
玄人好み・通好みの“裏名品”
「わしとおまえは焼山かつら うらは切れても根は切れぬ」
明治幕末期を代表する傑物のひとり、高杉晋作が山縣狂介(有朋)に宛てたとされる都々逸である。互いを植物の葛(くず)に見立てて、焼けて葉茎は枯れても根はつながっている。要は切っても切れぬ仲であると詠んだのだ。
スニーカーアディクトたちと“とあるブランド”の関係性は、まさにこれではないだろうか。近年、新興勢力の台頭とカスタマーの嗜好の変化により一時の勢いこそ落ち着くも、我々の心に深く根を張っている存在、それがナイキ。1964年にアメリカ・オレゴン州で創業以来、ただの運動靴に過ぎなかったスニーカーを1つのカルチャーにまで高めた功績とその偉大さに対する評価は、シーンがどんなに移りかわろうと色褪せない。今回は数多の名作群が収められたアーカイブから、決してメインストリームではないが玄人好み・通好みの“裏名品”を紹介する。
そして同時に、『今欲しい、大人が選ぶべきスニーカー』と題し“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案してきた本連載シリーズもひとまずラストを迎える。これまで取り上げてきたモデル総数は210。これは、イチローがオリックス・ブルーウェーブ時代に残した「プロ野球のシーズン安打数パ・リーグ記録」と同数。時にポテンヒット、時にホームランを読者諸氏に提供しつつの42回目というわけだ。
また同時に42が“死に”にもつながり、男の大厄の歳であることも踏まえるならば一旦の締めくくりにこれほどふさわしい数字はない。願わくばまたいつか、ナンバリングを継承して43がえり(蘇り)、読者諸氏とここでお会いできることを祈るばかりである。
1. NIKE SPORTSWEAR「KILLSHOT 2 SDE」
元々は、テニスでもスカッシュでもなくラケットボール用
4面の壁と天井、床に囲まれた空間で、前面の壁に当たったボールをラケットで打ち合う競技。それがラケットボール。よく似たスポーツで著名なスカッシュを表と考えるならば、その専用シューズとして1979年に誕生した「キルショット」は間違いなく裏。
インドアコートでのグリップ力を高めるラバー製のアウトソールは、急な横の動きにもクイックに対応し、足元をコントロール。それでいてトゥとヒール部の補強パーツ以外はどこまでもミニマル。これをなめらかなレザーアッパーとガムラバーソールで一新したのが「キルショット2」。しかも本作はさらにスウェード素材を纏ったニューバリエーションだ。
かつて『エスクァイア』や『GQマガジン』といった海外の権威あるファッション誌にも“洗練された大人の1足”として取り上げられていたという事実も、名作たる証左と言えよう。