●ウクライナ戦争以降
こうした天然ガス・電力を介した三者関係は2009年から顕著になっており、ウクライナ戦争以降のEU市場における電力価格高騰、ウクライナの電力輸出能力の喪失(特に2022年10月以降のロシアによるエネルギーインフラ攻撃)でますます緊密なものとなった。
モルドバ現政権は反ロシア・EU加盟政策を国是としているが、電気料金の高騰は政権支持率に直に影響するため、EU産(主としてルーマニア)電力に切り替えることが困難である。
ルーマニアからの電力輸入で国内需要をカバーすることは可能だが、その市場価格は沿ドニエストル産の2倍以上である。
一方で、ヨーロッパTTFガス価格はガスプロム契約価格より安い場合もあれば高い場合もある。
2022年末以降、モルドバが契約するガスプロムのガスはもっぱら左岸(沿ドニエストル)向けのみとなり、右岸(モルドバ)消費分はEU市場から調達している。
沿ドニエストルは主たる交易ルートであったウクライナ領が戦場となりロジスティックが混乱し、発電が唯一の安定した産業となっていった。
ロシアから見ても、ウクライナ侵攻時の口実となった「ロシア語系住民の守護」だけでなく、2024年秋の大統領選挙・国民投票を経てEU加盟に邁進するサンドゥ・モルドバ政権に対する梃子として沿ドニエストルは維持しなければならない。