首脳会談と食事会は別モノだという。写真は、ペルーのボルアルテ大統領と会談する石破首相(写真:共同通信社)首脳会談と食事会は別モノだという。写真は、ペルーのボルアルテ大統領と会談する石破首相(写真:共同通信社)

 12月15日、安倍晋三元首相夫人の安倍昭恵さんがトランプ次期大統領夫妻と食事会を共にした。大統領就任前の多忙なクリスマスの時期の、しかも日曜日に私邸の夕食に招いたという事実は、トランプ氏が安倍夫妻との個人的な人間関係をどれだけ重視してきたのかを浮き彫りにしている。図らずも、政敵の妻の橋渡しによって首脳会談の道筋が開けた石破首相だが、今の時代に不可欠な外交能力はどこまで備わっているのだろうか。(山中 俊之:著述家/コラムニスト)

 12月15日(日)夜に、トランプ次期大統領の滞在するフロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」で安倍晋三元首相夫人の安倍昭恵さんが、トランプ次期大統領夫妻と食事会を共にした。

 日本政府は関与していないとして、民間人の次期大統領との食事会に表面では平静を装っている。しかし、昭恵さんはトランプ氏と会うことができる数少ない日本の要人である。何らかのルートを通じて事前にブリーフを昭恵さんに行い、事後は会談内容などを詳細に聴取しているはずだ。

 空港到着時の昭恵さんの姿を報道で見る限り、秘書などは連れていない。1人でフロリダ州まで乗り込んで、世界が注目する次期大統領夫妻と一緒に食事したようだ。行動力と胆力は、さすが史上最長の首相を支えた配偶者だと思う。

 今回の一連の動きを見て、「トランプ氏も人情の人だな」と感じた。大統領就任前の多忙なクリスマスの時期の日曜日に夕食を共にしたことは、トランプ氏がいかに安倍夫妻との個人的な人間関係を重視してきたかが分かる。

「アメリカ・ファースト」と叫んで、強面で敵や外国を攻撃ばかりをしている人というイメージがあったが、それだけではないようだ。

 昭恵さんとの食事会の後、トランプ氏は「石破首相と会いたい。日本の首相の地位には敬意を表している」と表明した。石破首相にサインをして「Peace」と書いた写真集をお土産まで渡したと言われる。早期の石破・トランプ会談を実現したい日本政府としては、ひとまず安堵したことだろう。

 トランプ氏との会談の設定に苦慮していた石破首相であるが、長年の政敵であった安倍首相夫人の昭恵さんの橋渡しで、良い形で首相会談への道筋が見えてきた。

 中国・三国志の「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の故事ではないが、「死せる安倍、生ける石破を走らす」といった状況だ。安倍氏の影響力は死しても甚大である。

トランプ氏と食事会を共にした安倍昭恵さん。写真はG20大阪サミットでのもの(写真:共同通信社)トランプ氏と食事会を共にした安倍昭恵さん。写真はG20大阪サミットでの一コマ(写真:共同通信社)

 本稿では、これまでの首相会談などを振り返りながら、改めて、これからの時代の首相としての外交能力について考えていきたい。