想像以上に重要な首相個人の外交能力

「首相は、外務省が準備した内容に基づいて発言しているから、首脳会談では苦労しない」と思っている人もいるかもしれない。

 それは大きく違うと思う。なぜなら、首脳会談はもとより、夕食会などの場は、政府高官や通訳が近くにいることがあっても、首相個人が対応しないといけない場面が圧倒的であるからだ。

 G20の場で、他国の首脳に座ったまま握手をして日本メディアから批判された石破首相。近くに外務審議官や大使など政府高官はいても、首相の席にしゃしゃり出て首相の代わりに対応することなどはあり得ない。

 私自身、1995年に村山首相(当時)とサウジアラビアのアブドラ皇太子(当時、後に国王)の首脳会談で通訳を経験した。首相はあらかじめ準備した発言要領に基づいて発言はするが、その他の社交の場もある。信頼関係を得るための知識や気配り、人間力は欠かせないと感じた。

 しかも、首相個人の外交能力の重要性が上がっているのは、21世紀に入り、多国間会議を含め、首脳会議が大きく増加していることも理由として挙げられる。

 かつては、日本の首相が参加する多国間会議と言えば、G7サミットと国連総会くらいだったが、現在は、G20やAPECなど多国間首脳会議の数自体が増えている。

 多国間会議では、会談合間の時間の首脳同士の立ち話を含め、数多くの外交能力を試されるのだ。外務省が用意した発言要領を読んでいるだけでは到底務まらない。