別荘、茶道、ゴルフ……懐に飛び込むもう一段上の演出力

 日本的な感覚だと一流ホテルのレストランでの招待が一番相手に対するもてなしと感じる人もいるかもしれないが、世界は違う。別荘を含む自宅に招待することが最上のもてなしだ。

「マール・ア・ラーゴ」はトランプ氏の別荘である。

 安倍氏は、インドのモディ首相を河口湖の別荘に招待している。自然豊かな場所での歓待は、モディ氏を大いに感激させたことだろう。モディ氏が安倍氏の国葬出席のためにわざわざ東京まで足を運んだのは、このような背景もあるのだ。

 首脳会談で思い出すのは、1983年11月に、当時の中曽根首相がレーガン米大統領を東京・日の出町の別荘に招き、自らお茶を点てる歓待をしたことだ。両首脳夫婦はおそろいのチャンチャンコを着てくつろいだ雰囲気の中で昼食を共にした。それ以降、「ロン・ヤス」関係という良好な関係を築いたことは日米外交の歴史に輝く快挙となった。

 安倍氏がゴルフを通じてトランプ氏との関係構築に励んだ話はよく知られる。相手の懐に飛び込むには、あえて時間がかかるゴルフをすることが妙薬なのだ。

 このような提案は、首相が本気でイニシアティブをとらないと実現しない。外務省など事務方の力だけでは提案できない。

 外交は単に国益のために意見交換するだけの場ではない。もう一段上の演出力が首相には求められる。

 トランプ氏との会談の門は開かれた。失礼ながら、外国首脳との会談や社交が必ずしも得意ではないとも見える石破首相がどのように対応するのか見守っていきたい。

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。
 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。
 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。