数々の賞を受賞、旧橋も土木遺産に登録

 余部橋梁は、これまでプレストレストコンクリート技術協会賞(作品部門)、土木学会賞(田中賞、作品部門)、エンジニアリング功労者賞(エンジニアリング振興)、日本コンクリート工学会賞(作品賞)などの多くの受賞歴に輝く。いずれも、PCエクストラドーズド橋として新設された余部橋梁についての評価である。

 一方、旧余部橋梁(余部鉄橋)は、土木学会選奨土木遺産(平成26年度)として登録されている。その選奨理由を記したい。

「明治末期に東洋一の橋りょうとして建設され、また適切な補修により1世紀にわたりほぼ建設当時の姿を残した貴重な土木遺産」

 “土木学会選奨土木遺産(civil engineering heritage)”の認定制度は、土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的として、平成12年(2000年)に設立された。推薦および公募により、年間20件程度選出されている。

明治から令和にわたる鉄道橋のレガシーを刻む

 餘部駅には旧橋の一部を利用した展望施設“空の駅”や公園施設が併設されたほか、貴重な旧橋のトレッスル鋼材の一部が保存・展示され、新しい鉄道観光施設として人気を博している(写真8)。当地の新しい鉄道観光施設の誕生だ。自治体の支援に加えて、地元、鉄道ファンの支援の賜物と考えたい。

写真8 展望施設“空の駅”とクリスタルタワー

 現地に行けば、公園施設にて鋼製の橋桁(鋼部材は米国製とのこと)もコンクリート製の新橋も、本物を間近で見ることができる(写真9)。100年前の鋼鉄やボルトの肌触り、そして材齢十数年のコンクリートの感触を実感し、当時の技術と新技術を感じとってもらいたい。併設する展望施設も含めて、次世代に伝えたい鉄道施設のギャラリーである。

写真9 現地に展示された旧橋の橋桁

 あらためて、旧橋誕生から100年の星霜を重ねて代替わりしたJR山陰本線余部橋梁は、明治、大正、昭和、平成、令和にわたる鉄道橋のレガシーを刻んでいる。1世紀にわたる鉄道事業者の矜持を知る思いであり、明治期の鉄道技術者と新世代の橋梁技術者の時を超えたプロフェッショナリズムに感謝したい。

余部橋梁
●所在地:兵庫県香美町
●発注者:JR西日本

[旧橋](通称 余部鉄橋)
●構造形式:鋼トレッスル橋
●全長310.59m、幅5.334m、高さ41.45m、最大支間長18.288m(60フィート)
●供用期間:明治45年(1912年)~平成22年(2010年)

[新橋]
●橋長310.6m、幅員7.55m、高さ41.5m、最大支間長82.5m
●上部構造:5径間連続PC箱桁エクストラドーズド橋
●下部構造:RC橋脚4基、橋台2基
●供用開始:平成22年(2010年)