数は少ないが、山岳トンネル内に設置された駅(ここでは「トンネル駅」と呼ぶ、地下鉄駅は除く)がある。利用者には不便だし、建設コストもかかるのになぜだろうか。行ってみるとなかなかおもしろい体験ができるトンネル駅を紹介しよう。
(牧村あきこ:土木フォトライター)
湯西川温泉駅(栃木県日光市)も「トンネル駅」なのだが、筒石、土合(下りホーム)、美佐島とは大きく違うところが2点ある。①トンネルの坑口(トンネルの出入口)に近く、駅のすぐ先がトンネルの外(実は橋梁)になっている、②観光客の利用を中心に作られている――だ。ほかのトンネル駅とは違う雰囲気を味わってほしい。
“6割近くがトンネル”の野岩鉄道
まず、「抗口に近い」という点から見てみよう。トンネル駅にせざるを得なかった理由がよくわかる。
湯西川温泉駅のある野岩(やがん)鉄道は、東武鉄道鬼怒川線の新藤原駅(栃木県日光市)と会津鉄道会津線の会津高原尾瀬口駅(福島県南会津町)をつなぐ鉄道として、1986年に開業した。関東から会津若松につながる鉄道として、長年計画・建設されていたものが実現したのだ。
栃木と福島の県境にある約30.7kmの路線は、その大半が山間部を通る。路線全体の6割近くを18のトンネルが占めているのだ。そして、最も長い葛老山(かつろうざん)トンネル(全長4250m)の会津側坑口近くに湯西川温泉駅がある。
しかもトンネルを出るとすぐに湯西川を渡る橋(湯西川橋梁)になっている。
駅名の元である湯西川温泉郷は、実は駅の近くではなく、駅から10km以上離れている。その湯西川温泉郷に行くための栃木県道249号が国道121号から分岐している場所に「湯西川温泉駅」を設けるのがやはり適切だ。