数は少ないが、山岳トンネル内に設置された駅(ここでは「トンネル駅」と呼ぶ、地下鉄駅は除く)がある。利用者には不便だし、建設コストもかかるのになぜだろうか。行ってみるとなかなかおもしろい体験ができるトンネル駅を紹介しよう。
(牧村あきこ:土木フォトライター)
駅構内が地下迷宮のようで、非日常の探検感を味わえるトンネル駅が、えちごトキめき鉄道の筒石駅(つついしえき、新潟県糸魚川市)だ。
特に湿度の高い夏場になると、連絡通路が霧で満たされ、構内の蛍光灯で拡散された光がなんとも幻想的な光景を映し出す。
地上からホームまでは、300段近い階段を下りなければならず、さらにいくつかの曲がり角がある。なぜこのような場所に設置されたのか。歴史的背景をたどりながら、実際の駅の様子をリポートしよう。
複線化を機にトンネルを建設し、駅も移転
筒石は1912年(大正元年)に開業した北陸本線(当時)の古い駅だ。このときの北陸本線は海岸沿いを通る単線の路線で、開業当初の筒石駅も今とは別の場所にある地上駅だった(下図)。
1969年(昭和44年)、北陸本線を複線化するにあたり、全長1万1353mの頸城(くびき)トンネルが建設され、筒石駅は現在の場所に移転した。
まずは実際の構内の様子をみていこう。
2020年8月の終わり、私の乗った下り列車が筒石駅に到着。下車したのは私一人だ。誰もいないホームから、直江津(なおえつ)行きの列車を見送る。
まるで雨が降った後のように濡れたホームやトンネル側壁を、遠ざかる列車の尾灯が赤く照らす。次第に小さくなる列車の走行音を聞いていると、映画のセットの中にいるような感覚になる。