地上にある「青函トンネル記念館駅」に停車中の「もぐら号」(写真および図はすべて牧村あきこ、2023年6月撮影)地上にある「青函トンネル記念館駅」に停車中の「もぐら号」(写真および図はすべて牧村あきこ、2023年6月撮影)

数は少ないが、山岳トンネル内に設置された駅(ここでは「トンネル駅」と呼ぶ、地下鉄駅は除く)がある。利用者には不便だし、建設コストもかかるのになぜだろうか。行ってみるとなかなかおもしろい体験ができるトンネル駅を紹介しよう。

(牧村あきこ:土木フォトライター)

 世界で最も海抜の低い場所にある“鉄道駅”は日本国内にある。海面下140mにある「体験坑道駅(青森県外ヶ浜町)」だ。

 以前の世界第1位は、海面下149.5mの吉岡海底駅だった。青森県と北海道を鉄路で結ぶ「青函トンネル」内には、トンネル施設の見学用に竜飛(たっぴ)海底駅(青森県側)と吉岡海底駅(北海道側)という2つのトンネル駅があったのだ。ところが2014年、北海道新幹線開業に向けて両駅は廃止された。

「最も海抜の低い駅」の称号を受け継いだ体験坑道駅は、青函トンネル建設のために掘削された斜坑を利用したケーブルカー「青函トンネル竜飛斜坑線」の駅だ。竜飛斜坑線は、地上側の「青函トンネル記念館駅」とを結ぶ、主に見学のためのものだが、鉄道事業法に準拠し運行されているれっきとした鉄道路線だ。

 ケーブルカー「もぐら号」は2023年9月、車体に損傷が見つかり運休していたが、修繕費用の一部をクラウドファンディングで捻出し、この4月19日に無事運行を再開した。

 体験坑道駅に行くには、青函トンネル記念館が実施する「体験坑道」という見学ツアーに参加する必要がある。以下の内容は、そのツアーに参加したときのものだ。

 ツアーの様子を約1分の動画にまとめたので、こちらを見ていただいてから以降を読むと、より実感しやすいだろう。

 また、長いバージョンの動画も用意した(記事末にYouTubeへのリンクあり)。もっとじっくり堪能したい方はそちらもご覧ください。

突風よけの風門が開き、いざ地中へ

 青函トンネル記念館は、津軽半島の北端、風が強く吹きすさぶ龍飛崎(たっぴざき)にある。少し見えにくいが、建物右側の壁から右下の白い小屋に向かってケーブルが延びている。白い小屋に設置された巻き上げ機で、ケーブルカーを動かしているのだ。

 ケーブルカーの改札扉を抜けると、青函トンネル記念館駅ホームと車両基地がある空間が現れる。目の前にあるオレンジ色のもぐら号が、こちらに滑り落ちてきそうな迫力がある。竜飛斜坑線の“斜度14度”を実感する瞬間だ。