令和に入り、存在感を増す揚水発電

 さて、揚水発電は大容量の水を主役とする発電蓄電システムを山地に構築するのだが、一体どうやって立地調査し、設計・施工したのか。例えば、運用開始後に編纂される工事誌を閲覧すると、以下の4項目が記載されている。

1.発電計画、2.地形・地質調査、3.気象・水文調査、4.環境影響評価

 特に、1の発電計画がスタートになるが、ここでは開発規模が重要で、単機出力、発電機台数、池容量、経済性比較などのシミュレーションが繰り返される。プロジェクトの実行可能性、採算性などを調査するフィージビリティスタディ(feasibility study)が欠かせない。

 “土木工学は総合技術”とも評されるが、揚水発電の計画・建設は、まさにその最たる事例であろう。国内外での豊富な実績と卓越したエンジニアリングが後押ししている。

 猛暑に見舞われる夏季、寒さの厳しい冬季、私たち市民は電力逼迫に対処するため節電に励むが、一方では、揚水発電所の出番でもある。頼もしいかな、揚水式水力発電所の各施設が一味同心One Teamとなって稼働し、電力の安定供給に貢献する。

 揚水発電は長い歴史を刻むが、その重要性は令和期に入り、様相が変わる。いわゆる太陽光や風力など再生可能エネルギー発電(renewable energy power generation)の“新顔”が送配電網に多数接続されるようになり、揚水発電の必要性が増している。再エネの新顔たちは自然条件に左右されるため、蓄電システムの重要性が増しているというのだ。

 揚水発電所は、再生可能エネルギーの利用に寄与するため、電力平準化を遂行するため、与えられたミッションを果たしている。電力の安定供給とCO2削減の両立を実現する揚水発電が欠かせない存在となっている。改めて、往時の電力事業者と設計・建設エンジニアの見識と情熱に感謝し、粛々と進む有効活用にエールを送りたい。

北海道電力京極発電所
●所在地:北海道虻田郡京極町
●発電方式:水力(ダム水路式、純揚水)
●最大出力:60万kW(20万kW×3台)
●使用水量:190.5m3/秒
●有効落差:369m
●運転開始:1号機/2014年、2号機/2015年、3号機/2032年度以降

東京電力リニューアブルパワー神流川発電所
●所在地:長野県上池南相木ダムと群馬県側の下池上野ダム
●発電方式:水力(ダム水路式、純揚水)
●最大出力:282万kW(47万kW×6台)
●最大使用水量:510m3/秒
●有効落差:653m
●運転開始:1号機/2005年、2号機/2012年、3〜6号機/未定

東京電力リニューアブルパワー葛野川発電所
●所在地:山梨県大月市・甲州市
●発電方式:水力(ダム水路式、純揚水)
●最大出力:160万kW(40万kW×4台)
●使用水量:280m3/秒
●有効落差:714m
●運転開始:1号機/1999年、2号機/2000年、3号機/未定、4号機/2014年