2025年3月28日、世界選手権、アイスダンス、リズムダンスで演技する吉田唄菜&森田真沙也 写真/共同通信社

(松原孝臣:ライター)

点数がまだついてきていない

 3月下旬に行われたフィギュアスケートの世界選手権、アイスダンスには吉田唄菜、森田真沙也組が出場した。

 結成2シーズン目、若い2人はリズムダンスに臨み、テンポのよい曲調のプログラムを演じ、観客の好反応を引き出す演技を披露した。結果は67.99点で22位、上位20組だけが出られるフリーダンスに進むことはかなわなかった。

「目指していた70点を超える点数に届かなかったので悔しい部分があります」(吉田)

「手応えはよかったですけど、点数がまだついてきていないです」(森田)

 演技の内容には一定以上の感触があった一方で点数にはつながらなかったことへの悔しさがにじんでいた。

 ジャンプの成功、失敗で得点や順位が入れ替わりやすいシングル、あるいはペアに比べて、アイスダンスはそもそも基礎点に大きな差はなく、GOE(出来栄え点)や演技構成点で差が出てくる。ざっくり言えば、そこまで積み上げてきた試合での実績もつながってくる。

 結成2シーズン目であり、今シーズンも決して海外の大会の数をこなしてきたわけではない2人にとって、そういう点でも世界選手権には壁があったのではないか。その中で印象的な演技をみせたことは今後につながるはずだ。

 つながる、という意味では、彼らのこれからということばかりではなく日本のアイスダンスを、と言う点もあげられる。昨年の世界選手権には、北京オリンピックの代表であり長いキャリアを重ねた小松原美里、ティム・コレト組が出場したがその後、小松原は引退。若い世代が継いでいくのは必然となっていたから、その意味でも吉田、森田は足がかりを残したと言える。

 そしてアイスダンスの灯を消さないためにも、この世界選手権を契機に今後が期待される。

 日本では、アイスダンスは長らく、関心を大きく集めることがない時代が続いた。指導者やリンクを含め練習環境が整わない、取り組む選手の少なさなどから、大会での成績は上がらず、注目されない。するとアイスダンスをしたいと考える選手もなかなか現れない、悪循環のような状態に陥っていた。

 その中で奮闘するカップルはいたが、大きな流れを生むには至らなかった。

 流れが変わったのは、高橋大輔がシングルから転向し、村元哉中とともにアイスダンスに挑戦してからのことだ。シングルで数々の活躍をしたのちの転向は、かつてない挑戦であったし、大きな注目を集めるのは自然なことだった。国内で行われる大会では、かつてないほどアイスダンスに観客が集まるようになったのは変化の一例だった。