
(松原孝臣:ライター)
2年ぶり2度目の優勝
フィギュアスケートの世界選手権に出場した日本代表の中で、とりわけ輝きを放ったのは、2年ぶり2度目の優勝を果たした三浦璃来・木原龍一組だった。
ショートプログラムでシーズンベストの得点をマークしてトップに立つ。フリーでは乱れる場面もあったが、ショートプログラム同様、スピードと情感あふれる演技で魅了し、1位を守った。
今シーズン、思うような出来にならず苦しむ大会もあったが、世界選手権ではその反省をいかし取り組んだという。「楽しむ」という気持ちを大切にしたことだ。
昨年末の全日本選手権を終えて、気づいたのは自分を追いつめることが問題となっていることだった。高いレベルを求めるのはよくても追いつめすぎれば、ましてや一人だけではない種目だけに、2人にとってもマイナスとなる。木原はそこに気づき、「楽しむ」ことを心がけた。ショートプログラムのあとの言葉が象徴的だ。
「今シーズンは楽しむということをあまりできていなかったので、楽しみつつ、しっかりとパフォーマンスできたのはすごくよかったです」。
かつてはアスリートが「楽しみたい」「楽しむ」と言うと、真剣さが足りない、と批判が寄せられることもあった。ただアスリートの言う「楽しむ」は、練習なりトレーニングなり、やることをやった上で、最後に力を発揮するための言葉や心境だ。ただの「楽しむ」ではない。木原の「楽しむ」も、だから大切な心がけであった。
こうして三浦・木原組が2年ぶり2度目の優勝を成し遂げた今回の世界選手権では、もう1つ、目をひくことがあった。三浦・木原組に加え、長岡柚奈・森口澄士組が出場したことだ。
実は日本のペアがふた組出場するのは、初めてのことだった。もちろん3組出たこともない。シングルでは、男女それぞれ、最大となる3人が出場するのが当たり前のようであるのとは対照的だ。
その理由として、出場枠が「1」だったためであるときもある。また近年は三浦・木原組の活躍で複数枠を確保しても、やはり出場するのは彼らだけであったこともある。いずれにしても、これまではひと組のみの出場であった。
そもそも全日本選手権に出場するペアの数自体が限られている。
2016年大会で須藤澄玲・フランシス・ブードロー=オデ組、須崎海羽・木原龍一組、小野眞琳・ウェスリー・キリング組、高橋成美・柴田嶺組と、計4組出場したことはあるが例外的で、ひと組のみであることも珍しくないし、参加するペアがいないために実施されないことも珍しくはなかった。ましてや男女のシングルのように、数十という数には及ばない。
それだけ、日本ではペアの基盤が弱かったことを意味する。世界選手権出場がひと組であったのもそこに由来する。