
(松原孝臣:ライター)
今までとは位置が異なる大会
3月下旬に行われたフィギュアスケートの世界選手権。男子は、まずは昨年の大会で4回転ジャンプ7本という異次元の構成でもって圧勝したイリヤ・マリニン(アメリカ)に注目が集まった。その中で、日本の3人はそれぞれの立ち位置から大会に臨んだ。
マリニンに迫る存在として期待を集めたのは、鍵山優真だった。北京オリンピックで銀メダル、世界選手権でも21年、22年、昨年と3度出場し、そのすべてで2位に入っている。
「そろそろ金メダルを狙って頑張りたい気持ちです」
大会への思いは、まだ届いていない優勝を果たすことにあった。
曲のアレンジを少し変えて臨んだショートプログラムではマリニンが高得点をあげたあとの滑走順。そのプレッシャーをものともせず、ミスのない演技を披露しシーズンベストの得点を出し、マリニンに次ぐ2位につける。
だがフリーは様相が異なった。冒頭の4回転フリップが2回転になると、その後のジャンプでもミスが続き、フリーは10位。ショートと合わせた得点は278.19点、ショートプログラムの得点がいきて3位と表彰台に上がったが、鍵山にとって納得のいく出来ではなかった。
「今日の演技は、ほんとうに自分にとってメダルを獲っていいのかどうかという演技で、まだ頭の中を整理しきれていないです」
また、マリニンを追う云々ではない演技に、「(オリンピックの日本の)3枠を獲れたかどうかしか頭にありませんでした」とも言う。
今までとは位置が異なる大会だった。初めて世界選手権に出場した2021年大会は北京五輪の出場枠が懸かっていた。その中で好演技をみせて2位となったが、代表には羽生結弦、宇野昌磨がいた。その後の2つの大会も、宇野がいた。
でも今回は他の2人が世界選手権初出場である中、明確に、鍵山が日本男子の軸と目される立場にあった。その重圧もどこかのしかかっただろう。