文=松原孝臣
「経験を次にいかせたら」
12月20日に始まり、22日に幕を閉じたフィギュアスケートの全日本選手権。
最終種目となった女子フリーが終わり、表彰式が行われている。優勝した坂本花織、昨年、一昨年の3位から一つ順位をあげた島田麻央、復帰シーズンの成果を示した樋口新葉、3人はそれぞれに晴れやかな笑顔を見せている。
でもこの3人に限らず、輝きをみせた選手たちがいる。
「成長できていると思います」
手ごたえをしっかりつかんだのだろう、5位の成績を残した松生理乃(まついけ・りの)は柔らかくも、確固と力強さがこもっていた。
2020年、ジュニアだった高校1年生のとき、コロナ禍で変則的に実施されたNHK杯で坂本、樋口に次ぐ3位、全日本選手権では4位に入り、脚光を浴びた。
ただ、その後は苦しい時間を過ごした。2021年は怪我の影響に苦しみ、2022年は体調不良に苦しんだ。全日本選手権でも13位にとどまった。挽回を期した昨シーズンはスケートカナダで3位、グランプリシリーズで初めて表彰台に上がったが全日本選手権は17位。全日本選手権は大きな壁となり、立ちはだかっていた。
迎えた今シーズン、グランプリシリーズは2戦ともに2位、グランプリファイナルにも進出(6位)とこれまでで最高のシーズンをおくってきた。
だが、心から成長した、と思うためには全日本選手権を乗り越える必要があった。
「(全日本選手権では)何年もいい演技ができていなくて悔しい思いをしているので、今年断ち切りたいです」
強い思いとともに挑んだ。
それを実行した。まず今シーズン、苦しんでいたショートプログラムでノーミス、非公認ながら自己ベストとなる得点をマーク。「やっとだな、という気持ちです」。言葉が弾んだ。
フリーでも、昨年までとは違った。最後のジャンプ、トリプルサルコウが2回転となったが、スケーティングを土台に、スタートから最後まで松生らしい演技を披露してみせた。
「だいぶ試合に慣れて、強い気持ちで演技をできるようになったと思います」
そこに秘策があったわけではない。シーズンで試合を重ねるごとに「経験は次につながる」と思えた。そして積み重ねは今シーズンだけのことではない。苦しみながら答えを見いだそうと取り組んだ昨シーズンまでの時間あればこそだ。
「去年、一昨年はいっぱい失敗をして、わけが分からないまま終わった全日本でした。今年は1つのミスで悔しさがあります。成長できているのかな、と思います」
そしてこう語る。
「経験を次にいかせたら」