文=松原孝臣 撮影=積紫乃

演出家という目線じゃなく同じ目線で

 独自の世界観を築くことで圧倒的な好評を博した東京パノラマシアターの公演『MoMo de la Paris ~パリから来た桃太郎~』。

 主宰であり脚本・演出、そして出演した鈴木ゆまは、公演にあたっての3カ月に及ぶ稽古の様子をこう語る。

「『今日は私は何も言わないので、皆さんが一人ずつ演出家になってシーンを作ってください』って日もありました。そのシーンに関係する俳優の方、ダンサーの子が一人ずつ演出プランを考える時間があって、みんなそれぞれにこういうステージングにした方がいいとか、こういうダンスを踊った方がいいとかを考えて、どうしてそういうステージングにしたかを聞くと、どういう存在で、どういう関係性で、このシーンではどうしなければいけないのか、だんだん削られて見えてくるんですね。そこから演出を決めていくと、みんなへの浸透率がすごく高くて、結果的にみんなの中でこれは必要なことだよね。これは不必要だねっていうことが最短距離でできます」

 さらに言葉を加える。

「やっぱり決め事が多いので、最終的に私が決めなければいけないことももちろん多いんですけど、でもそこに至るまでにやっぱり多くの人が関わってくれて、みんなが主体的に考えて作品を求める状態が私は好きです。カンパニーをせっかくやっているんだったらみんなで創っているという感覚が持てる集団にしたいなと思っていましたし、それができるメンバーを今回集めました」

 みんなで創る姿勢を大切にしながらも、それを一つの作品にまとめあげるには、やはりリーダーシップを必要とする。

「そうですよね。みんなが言いたいことの中から、作品に必要なエッセンスを抽出していく力がリーダーシップだと私は思うんですね。そこはみんなとの信頼関係だと思いますし、今年2月の『滑走屋』が私の中では大きいですね。『滑走屋』のとき、どういうリーダーシップを発揮してみんなを率いていたかを常に思い出しながら、どうやってこの集団を引っ張っていこうかと何度も思いましたね」

 高橋大輔が立ち上げた『滑走屋』に、鈴木ゆまは振り付け等で参加した。そのときの経験の大きさを語る。

「若い人に対して、年齢が自分が上だとかそういうことが関係ないという姿勢が一つあります。『桃太郎』もすごく若い子たち、20代前半の子が多くて、キャリアもそんなに踏んでいない子がたくさんいましたけれど、なるべく稽古場で気にしてあげて、うまく役と向き合えていられるか、もっと役と向き合えるためにはどうしてあげたらいいのかってことを、演出家という目線じゃなく同じ目線で考えてあげるようにしました。メダリストの高橋大輔じゃなく、ちゃんと目の前の人に訴えかける、話しかけることをされていて、これはすごく人との人とのつながりが生まれてついていくよな、と思って見ていましたし、こうやって人がついてくると、みんなが輝いている作品になるんだなって思いました。『桃太郎』も、そこは意識していました」